エムポックスに対して現在使用されているワクチンは、エムポックスウイルスに類似しているがよりまれな天然痘ウイルスに対して効果を発揮するように設計されている。こうした中、製薬企業のモデルナ社のmRNA技術を用いた新たなエムポックスワクチンの方が、現行のワクチンよりも接種者を守る効果が高い可能性を示唆する研究結果が報告された。この研究の詳細は、「Cell」に9月4日掲載された。 モデルナ社のウイルス学者であり免疫学者でもあるGalit Alter氏は、「このmRNAワクチンによって、最も強力で効果的な免疫反応を引き起こすウイルスの断片を選び出すことができる。ウイルスの構造全体に気を取られることなくワクチン接種者の防御に有効な断片を標的とすることにより、効率的な防御が可能となる」と説明している。 2022年7月、アフリカでエムポックスのアウトブレイク(集団発生)が起こり、世界中に感染が拡大。ゲイやバイセクシュアルの男性を中心に116カ国で約10万人近くがエムポックスに罹患し、約200人が死亡した。その後、エムポックスワクチンであるJYNNEOSの適時使用と世界中のゲイコミュニティの人の行動変容によってアウトブレイクは収束に向かった。 しかし、数カ月前から中央アフリカ、中でもコンゴ共和国でエムポックスの新たなアウトブレイクが猛威を振るっている。アフリカ疾病管理予防センターによると、この新たなアウトブレイクによって、12カ国で2万1,300人以上がエムポックスと診断されたか、またはエムポックスウイルスに感染したと推定され、590人が死亡した。これらの国には、それまでエムポックス罹患者の報告がなかった国も含まれていた。そのため、エムポックスの危険にさらされている人々を守ることのできる新たなツールの開発が望まれている。 現在使用されているワクチンは、天然痘ウイルスやエムポックスウイルスと同属のオルソポックスウイルス属を弱毒化して作られており、有効ではあるが、エムポックスウイルスを完全に防御することはできないとAlter氏らは説明する。 モデルナ社の新たなワクチン候補は「mRNA-1769」と呼ばれ、接種者にエムポックスウイルス感染やエムポックスの重症化を防ぐための持続的で保護的な免疫反応を引き起こす4つのウイルス抗原(A29、A35、B6、M1)を標的とする。これらの抗原を個々に標的としただけでは十分な保護効果が得られないが、4種類を組み合わせることで理想的な保護効果を得ることができるのだという。 今回の研究でAlter氏らは、18頭のカニクイザルを用いてmRNA-1769と従来型のワクチンとを比較する研究を実施した。研究では、18頭のうち6頭に従来型ワクチンを、6頭にmRNA-1769を接種し、残る6頭にはいずれのワクチンも接種しなかった(ワクチン未接種群)。その8週間後、これらのサルを致死性のあるエムポックスウイルス株に曝露させ、免疫反応を測定するための血液採取などを含めて4週間にわたって健康状態をモニターした。 その結果、従来型かmRNA-1769かにかかわらず、ワクチンを接種した12頭のサルは全て、エムポックスウイルス曝露後も生存し続けたという。ただ、従来型ワクチンを接種したサルでは体重に変化が認められなかったのに対し、mRNA-1769を接種したサルでは体重増加が認められ、エムポックス特有の皮膚病変も少なかった(1頭当たりの最大の病変数:mRNA-1769接種群54個、従来型ワクチン接種群607個、ワクチン未接種群1,448個)。また、mRNA-1769接種群では病変が認められる期間も10日以上短かった。このことは他者にうつす可能性の低下を示すものだと同氏らは説明している。免疫反応に関しては、血液検査からmRNA-1769接種群では従来型ワクチン接種群と比べて、ウイルスを標的とする抗体の数が多く、また免疫機能も多様であることが明らかになった。一方、どちらのワクチンも接種しなかった6頭のうち5頭は、ウイルスへの曝露後に死亡した。 「Cell」の発行元であるCell Press社のニュースリリースによると、すでにヒトを対象に「さまざまな用量のmRNA-1769の安全性と忍容性、免疫反応を調べる」ことを目的とした第2相臨床試験が進行中であるという。なお、今回のカニクイザルを用いた研究は、モデルナ社と米国立衛生研究所(NIH)の助成を受けて実施された。(HealthDay News 2024年9月4日) https://www.healthday.com/health-news/infectious-disease/modernas-mrna-based-mpox-vaccine-shows-promise-in-monkey-trial Copyright © 2024 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock
エムポックスに対して現在使用されているワクチンは、エムポックスウイルスに類似しているがよりまれな天然痘ウイルスに対して効果を発揮するように設計されている。こうした中、製薬企業のモデルナ社のmRNA技術を用いた新たなエムポックスワクチンの方が、現行のワクチンよりも接種者を守る効果が高い可能性を示唆する研究結果が報告された。この研究の詳細は、「Cell」に9月4日掲載された。 モデルナ社のウイルス学者であり免疫学者でもあるGalit Alter氏は、「このmRNAワクチンによって、最も強力で効果的な免疫反応を引き起こすウイルスの断片を選び出すことができる。ウイルスの構造全体に気を取られることなくワクチン接種者の防御に有効な断片を標的とすることにより、効率的な防御が可能となる」と説明している。 2022年7月、アフリカでエムポックスのアウトブレイク(集団発生)が起こり、世界中に感染が拡大。ゲイやバイセクシュアルの男性を中心に116カ国で約10万人近くがエムポックスに罹患し、約200人が死亡した。その後、エムポックスワクチンであるJYNNEOSの適時使用と世界中のゲイコミュニティの人の行動変容によってアウトブレイクは収束に向かった。 しかし、数カ月前から中央アフリカ、中でもコンゴ共和国でエムポックスの新たなアウトブレイクが猛威を振るっている。アフリカ疾病管理予防センターによると、この新たなアウトブレイクによって、12カ国で2万1,300人以上がエムポックスと診断されたか、またはエムポックスウイルスに感染したと推定され、590人が死亡した。これらの国には、それまでエムポックス罹患者の報告がなかった国も含まれていた。そのため、エムポックスの危険にさらされている人々を守ることのできる新たなツールの開発が望まれている。 現在使用されているワクチンは、天然痘ウイルスやエムポックスウイルスと同属のオルソポックスウイルス属を弱毒化して作られており、有効ではあるが、エムポックスウイルスを完全に防御することはできないとAlter氏らは説明する。 モデルナ社の新たなワクチン候補は「mRNA-1769」と呼ばれ、接種者にエムポックスウイルス感染やエムポックスの重症化を防ぐための持続的で保護的な免疫反応を引き起こす4つのウイルス抗原(A29、A35、B6、M1)を標的とする。これらの抗原を個々に標的としただけでは十分な保護効果が得られないが、4種類を組み合わせることで理想的な保護効果を得ることができるのだという。 今回の研究でAlter氏らは、18頭のカニクイザルを用いてmRNA-1769と従来型のワクチンとを比較する研究を実施した。研究では、18頭のうち6頭に従来型ワクチンを、6頭にmRNA-1769を接種し、残る6頭にはいずれのワクチンも接種しなかった(ワクチン未接種群)。その8週間後、これらのサルを致死性のあるエムポックスウイルス株に曝露させ、免疫反応を測定するための血液採取などを含めて4週間にわたって健康状態をモニターした。 その結果、従来型かmRNA-1769かにかかわらず、ワクチンを接種した12頭のサルは全て、エムポックスウイルス曝露後も生存し続けたという。ただ、従来型ワクチンを接種したサルでは体重に変化が認められなかったのに対し、mRNA-1769を接種したサルでは体重増加が認められ、エムポックス特有の皮膚病変も少なかった(1頭当たりの最大の病変数:mRNA-1769接種群54個、従来型ワクチン接種群607個、ワクチン未接種群1,448個)。また、mRNA-1769接種群では病変が認められる期間も10日以上短かった。このことは他者にうつす可能性の低下を示すものだと同氏らは説明している。免疫反応に関しては、血液検査からmRNA-1769接種群では従来型ワクチン接種群と比べて、ウイルスを標的とする抗体の数が多く、また免疫機能も多様であることが明らかになった。一方、どちらのワクチンも接種しなかった6頭のうち5頭は、ウイルスへの曝露後に死亡した。 「Cell」の発行元であるCell Press社のニュースリリースによると、すでにヒトを対象に「さまざまな用量のmRNA-1769の安全性と忍容性、免疫反応を調べる」ことを目的とした第2相臨床試験が進行中であるという。なお、今回のカニクイザルを用いた研究は、モデルナ社と米国立衛生研究所(NIH)の助成を受けて実施された。(HealthDay News 2024年9月4日) https://www.healthday.com/health-news/infectious-disease/modernas-mrna-based-mpox-vaccine-shows-promise-in-monkey-trial Copyright © 2024 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock