ラットと冬眠するタイプのリスを用いた研究で、白内障を改善する可能性のあるタンパク質を見つけたと、米国立眼研究所(NEI)網膜神経生理学部門のWei Li氏らが報告した。動物実験の結果が人間でも再現されるとは限らないが、「RNF114」と呼ばれるこのタンパク質が同定されたことで、手術なしで白内障を治療できる可能性が出てきたとLi氏らは話している。研究結果は、「The Journal of Clinical Investigation」9月17日号に掲載された。Li氏は、「この白内障の可逆的な現象の分子ドライバーについての理解は、われわれに治療戦略の方向性を指し示すことになるかもしれない」と言う。 白内障は目の水晶体(光を屈折させて焦点を網膜に合わせる役割を持つ)に濁りが生じる状態を指す。NEIのニュースリリースでは、白内障は加齢とともに、「水晶体中で、変性により折り畳みに異常が生じたタンパク質が凝集してクラスターを形成し、それが水晶体を通過する光を遮って散乱させ、歪ませるようになる」ことで形成されると説明している。つまり、健康な視機能を保つためには、このようなタンパク質の折り畳みや分解を正確に制御するタンパク質の恒常性(プロテオスタシス)を維持する必要があるということだ。白内障は高齢になるほど発生頻度が高まる。その理由は明確にはなっていないが、加齢によって眼球内のプロテオスタシスが低下するためと考えられている。 一方、米国の中央部に住んでいる人なら、おそらくジュウサンセンジリスを見たことがあるはずだ。研究グループによると、ジュウサンセンジリスは、網膜に存在する光を受容する視細胞のほとんどが、色覚との関わりが強い錐体で構成されていることから、色覚に関する研究に適したモデルとされているという。また、このリスは、長く厳しい冬眠にも耐えることができる頑丈な体を持つことから、眼疾患の研究モデルとしてもよく使われているという。 Li氏らは、ジュウサンセンジリスの目の水晶体が華氏39度(摂氏3.9度)前後になると、白内障のサインである白濁状態になり、暖かくなると、この状態が逆転して再び透明になることを見出した。一方、別の生物である実験用ラットも、同じ低温環境で白内障を発症したが、気温が上がっても白内障が治ることはなかった。 そこでLi氏らは、ジュウサンセンジリスの細胞から作成した幹細胞を用いて人工水晶体モデルを作成し、水晶体のタンパク質凝集を防ぐ仕組みを探った。その結果、タンパク質の分解を制御するE3ユビキチンリガーゼであるRNF114が同定され、再加温中に眼内のRNF114が、冬眠をしないラットと比べて有意に増加することが確認された。さらに、冬眠をしないラットを用いた白内障の水晶体モデルを4℃で培養し、再加温しても白内障が消失しないことを確認した上で、RNF114で前処理した水晶体を再加温すると、白内障が消失することも確認された。 以上の結果は、RNF114がタンパク質凝集回避に深く関与していることを示すとともに、ジュウサンセンジリス以外の哺乳類でも、白内障の発症後にRNF114を増量投与することが有益である可能性を強く示している。そのような哺乳類には人間も含まれていると、Li氏らは考えている。 現時点で白内障の唯一の治療選択肢は手術であり、米国では年間に約400万件もの白内障手術が行われている。そのため、眼科研究の領域では長い間、手術以外のアプローチが究極の目標となってきた。 論文の上席著者である、浙江大学(中国)のXingchao Shentu氏は、「白内障手術は有効だが、リスクがないわけではない。科学者たちは白内障手術に代わる治療法を長年にわたって探してきた。世界の一部の地域では白内障手術へのアクセスが不十分であることが治療の障壁となっており、世界的に未治療の白内障が失明の主な要因となっている」と指摘している。(HealthDay News 2024年9月23日) https://www.healthday.com/health-news/eye-care/cataracts-gone-without-surgery-new-science-suggests-its-possible Copyright © 2024 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock
ラットと冬眠するタイプのリスを用いた研究で、白内障を改善する可能性のあるタンパク質を見つけたと、米国立眼研究所(NEI)網膜神経生理学部門のWei Li氏らが報告した。動物実験の結果が人間でも再現されるとは限らないが、「RNF114」と呼ばれるこのタンパク質が同定されたことで、手術なしで白内障を治療できる可能性が出てきたとLi氏らは話している。研究結果は、「The Journal of Clinical Investigation」9月17日号に掲載された。Li氏は、「この白内障の可逆的な現象の分子ドライバーについての理解は、われわれに治療戦略の方向性を指し示すことになるかもしれない」と言う。 白内障は目の水晶体(光を屈折させて焦点を網膜に合わせる役割を持つ)に濁りが生じる状態を指す。NEIのニュースリリースでは、白内障は加齢とともに、「水晶体中で、変性により折り畳みに異常が生じたタンパク質が凝集してクラスターを形成し、それが水晶体を通過する光を遮って散乱させ、歪ませるようになる」ことで形成されると説明している。つまり、健康な視機能を保つためには、このようなタンパク質の折り畳みや分解を正確に制御するタンパク質の恒常性(プロテオスタシス)を維持する必要があるということだ。白内障は高齢になるほど発生頻度が高まる。その理由は明確にはなっていないが、加齢によって眼球内のプロテオスタシスが低下するためと考えられている。 一方、米国の中央部に住んでいる人なら、おそらくジュウサンセンジリスを見たことがあるはずだ。研究グループによると、ジュウサンセンジリスは、網膜に存在する光を受容する視細胞のほとんどが、色覚との関わりが強い錐体で構成されていることから、色覚に関する研究に適したモデルとされているという。また、このリスは、長く厳しい冬眠にも耐えることができる頑丈な体を持つことから、眼疾患の研究モデルとしてもよく使われているという。 Li氏らは、ジュウサンセンジリスの目の水晶体が華氏39度(摂氏3.9度)前後になると、白内障のサインである白濁状態になり、暖かくなると、この状態が逆転して再び透明になることを見出した。一方、別の生物である実験用ラットも、同じ低温環境で白内障を発症したが、気温が上がっても白内障が治ることはなかった。 そこでLi氏らは、ジュウサンセンジリスの細胞から作成した幹細胞を用いて人工水晶体モデルを作成し、水晶体のタンパク質凝集を防ぐ仕組みを探った。その結果、タンパク質の分解を制御するE3ユビキチンリガーゼであるRNF114が同定され、再加温中に眼内のRNF114が、冬眠をしないラットと比べて有意に増加することが確認された。さらに、冬眠をしないラットを用いた白内障の水晶体モデルを4℃で培養し、再加温しても白内障が消失しないことを確認した上で、RNF114で前処理した水晶体を再加温すると、白内障が消失することも確認された。 以上の結果は、RNF114がタンパク質凝集回避に深く関与していることを示すとともに、ジュウサンセンジリス以外の哺乳類でも、白内障の発症後にRNF114を増量投与することが有益である可能性を強く示している。そのような哺乳類には人間も含まれていると、Li氏らは考えている。 現時点で白内障の唯一の治療選択肢は手術であり、米国では年間に約400万件もの白内障手術が行われている。そのため、眼科研究の領域では長い間、手術以外のアプローチが究極の目標となってきた。 論文の上席著者である、浙江大学(中国)のXingchao Shentu氏は、「白内障手術は有効だが、リスクがないわけではない。科学者たちは白内障手術に代わる治療法を長年にわたって探してきた。世界の一部の地域では白内障手術へのアクセスが不十分であることが治療の障壁となっており、世界的に未治療の白内障が失明の主な要因となっている」と指摘している。(HealthDay News 2024年9月23日) https://www.healthday.com/health-news/eye-care/cataracts-gone-without-surgery-new-science-suggests-its-possible Copyright © 2024 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock