実験段階にある「電気絆創膏」によって、いつの日か医師は薬を全く使わずに細菌感染を防げるようになる可能性のあることが、新たな研究で示された。皮膚パッチを通じて知覚できないほど弱い電気的刺激を与えることで、人間の皮膚の常在菌である表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)が10倍近く減少したことが確認されたという。米シカゴ大学化学科教授のBozhi Tian氏らによるこの研究の詳細は、「Device」に10月24日掲載された。Tian氏は、「この研究により、薬剤を使わない治療、特に薬剤耐性が深刻な問題となっている皮膚感染症や創傷の治療において素晴らしい可能性が広がった」と話している。 Tian氏らによると、電気はすでに数多くの疾患の管理に利用されている。例えば、ペースメーカーは電気を利用して安定した心拍を維持しており、眼球インプラントは電気で網膜を刺激することで視力を部分的に回復させることができる。 今回の研究では、抗菌薬の代わりに電気を使って表皮ブドウ球菌の増殖を制御できるかが調査された。研究グループは、表皮ブドウ球菌に着目した理由を、切り傷や医療処置によってこの菌が人体に侵入すると深刻な感染症を引き起こす可能性があるからだと説明している。なお、これまでに、全てのクラスの抗菌薬に耐性を持つ3種類の表皮ブドウ球菌の菌株が出現している。論文の責任著者の一人で米カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)分子生物学教授のGürol Süel氏は、「ブドウ球菌は皮膚の常在菌であり、微生物生態系の一部を構成している。そのため、皮膚から完全に除去することは、別の問題が生じる可能性があるため望ましいことではない」と説明している。 今回の研究では、まず、マイクロエレクトロニクス技術を用いて、表皮ブドウ球菌の電気的刺激に対する生理的な反応を調査した。その結果、理想的な酸性条件下(pH 5)では、抗菌薬を使用しなくても細菌のバイオフィルム形成を99%抑制することが示された。しかし、弱アルカリ性(pH 7.4)の条件下では、細菌に対する電流の効果は示されなかった。健康な人間の皮膚は弱酸性だが、慢性の傷は中性からアルカリ性になる傾向がある。 この情報に基づき、研究グループは電子薬学皮膚パッチを設計した。この皮膚パッチには、1.5ボルトの微弱な電流を流すための電極と、酸性環境を作り出す水性ゲルが含まれている。豚の皮膚モデル上でこの皮膚パッチによる18時間の治療を行ったところ、表皮ブドウ球菌のレベルは、電気的刺激を与えていないブタの皮膚モデルと比べて10倍近く減少したことが示された。細菌に汚染されたカテーテルに皮膚パッチを貼った場合も、結果は同様であった。 研究論文の筆頭著者であるシカゴ大学のSaehyun Kim氏は、「電気的刺激に対する細菌の反応に関しては十分に研究されていない。その一因は、細菌が反応を示す条件が明らかになっていないことにある」と話し、「細菌が特定の条件下でのみ反応する性質を明らかにすることは、異なる条件を調べて他の細菌種を制御する方法を見つけ出すことにつながる」としている。 さらなる研究でこの皮膚パッチの安全性と有効性を検証する必要はあるが、Tian氏らは、薬なしで感染症を制御できる「電気絆創膏」につながる可能性があるとの考えを示している。(HealthDay News 2024年10月28日) https://www.healthday.com/health-news/general-health/skin-patch-uses-imperceptible-electric-zaps-to-heal-wounds-without-drugs Copyright © 2024 HealthDay. All rights reserved.写真:実験段階にある皮膚パッチのサンプル Photo Credit: Kim, et al
実験段階にある「電気絆創膏」によって、いつの日か医師は薬を全く使わずに細菌感染を防げるようになる可能性のあることが、新たな研究で示された。皮膚パッチを通じて知覚できないほど弱い電気的刺激を与えることで、人間の皮膚の常在菌である表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)が10倍近く減少したことが確認されたという。米シカゴ大学化学科教授のBozhi Tian氏らによるこの研究の詳細は、「Device」に10月24日掲載された。Tian氏は、「この研究により、薬剤を使わない治療、特に薬剤耐性が深刻な問題となっている皮膚感染症や創傷の治療において素晴らしい可能性が広がった」と話している。 Tian氏らによると、電気はすでに数多くの疾患の管理に利用されている。例えば、ペースメーカーは電気を利用して安定した心拍を維持しており、眼球インプラントは電気で網膜を刺激することで視力を部分的に回復させることができる。 今回の研究では、抗菌薬の代わりに電気を使って表皮ブドウ球菌の増殖を制御できるかが調査された。研究グループは、表皮ブドウ球菌に着目した理由を、切り傷や医療処置によってこの菌が人体に侵入すると深刻な感染症を引き起こす可能性があるからだと説明している。なお、これまでに、全てのクラスの抗菌薬に耐性を持つ3種類の表皮ブドウ球菌の菌株が出現している。論文の責任著者の一人で米カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)分子生物学教授のGürol Süel氏は、「ブドウ球菌は皮膚の常在菌であり、微生物生態系の一部を構成している。そのため、皮膚から完全に除去することは、別の問題が生じる可能性があるため望ましいことではない」と説明している。 今回の研究では、まず、マイクロエレクトロニクス技術を用いて、表皮ブドウ球菌の電気的刺激に対する生理的な反応を調査した。その結果、理想的な酸性条件下(pH 5)では、抗菌薬を使用しなくても細菌のバイオフィルム形成を99%抑制することが示された。しかし、弱アルカリ性(pH 7.4)の条件下では、細菌に対する電流の効果は示されなかった。健康な人間の皮膚は弱酸性だが、慢性の傷は中性からアルカリ性になる傾向がある。 この情報に基づき、研究グループは電子薬学皮膚パッチを設計した。この皮膚パッチには、1.5ボルトの微弱な電流を流すための電極と、酸性環境を作り出す水性ゲルが含まれている。豚の皮膚モデル上でこの皮膚パッチによる18時間の治療を行ったところ、表皮ブドウ球菌のレベルは、電気的刺激を与えていないブタの皮膚モデルと比べて10倍近く減少したことが示された。細菌に汚染されたカテーテルに皮膚パッチを貼った場合も、結果は同様であった。 研究論文の筆頭著者であるシカゴ大学のSaehyun Kim氏は、「電気的刺激に対する細菌の反応に関しては十分に研究されていない。その一因は、細菌が反応を示す条件が明らかになっていないことにある」と話し、「細菌が特定の条件下でのみ反応する性質を明らかにすることは、異なる条件を調べて他の細菌種を制御する方法を見つけ出すことにつながる」としている。 さらなる研究でこの皮膚パッチの安全性と有効性を検証する必要はあるが、Tian氏らは、薬なしで感染症を制御できる「電気絆創膏」につながる可能性があるとの考えを示している。(HealthDay News 2024年10月28日) https://www.healthday.com/health-news/general-health/skin-patch-uses-imperceptible-electric-zaps-to-heal-wounds-without-drugs Copyright © 2024 HealthDay. All rights reserved.写真:実験段階にある皮膚パッチのサンプル Photo Credit: Kim, et al