衰えつつあった実験室のブタの心臓が、実験段階にある遺伝子治療を受けた後、ほぼ完全に機能を取り戻したとする研究結果が報告された。この遺伝子治療により、遺伝子導入に成功した4頭のブタは、心不全の悪化を免れただけでなく、心臓が修復され、さらには強化されたことも確認された。米ユタ大学薬理学・毒物学分野のTingTing Hong氏らによるこの研究の詳細は、「npj Regenerative Medicine」に12月10日掲載された。 Hong氏は、「ブタの心臓には、心不全を誘発するストレスがかけられていたにもかかわらず、心機能の回復と心臓の安定化あるいは縮小が確認された」と述べ、「われわれは、これをリバース・リモデリングと呼んでいる。これは、心臓が本来あるべき正常な姿に戻ることを意味する」と話している。 この遺伝子治療は、心臓ブリッジング・インテグレーター1(cBIN1)と呼ばれる重要な心臓のタンパク質に照準を合わせたものだ。T管は心室筋細胞に存在する構造体で、カルシウムイオンの調節に重要な役割を果たしている。一方、cBIN1は、T管の組織化や機能維持に関与しており、その発現レベルが低下するとT管の構造が乱れ、カルシウムイオンの調節機能が障害され、結果的に心室筋の収縮能力が低下することが報告されている。Hong氏らによると、これまでの研究で、心不全の患者ではcBIN1レベルが低く、またそのレベルが低くなるほど、重度の心臓病リスクが高まることが示されていた。論文の共著者の1人である、ユタ大学のノラ・エクレス・ハリソン心血管研究・研修所所長のRobin Shaw氏は、「cBIN1の発現レベルが低いと患者の状態が悪化することは分かっている。それなら、たとえ専門的な知識がなくても、そのレベルを回復させるとどうなるのかと疑問に思うのは当然だろう」と言う。 今回の遺伝子治療でHong氏らは、無害なアデノ随伴ウイルスにcBIN1遺伝子のコピーを組み込み、そのウイルスを5頭のブタに注射した。このウイルスは、血流に乗って心臓に移動し、心臓の細胞にcBIN1遺伝子を送り込む役割を果たす。その結果、5頭のうち4頭でcBIN1遺伝子の発現が確認され、遺伝子導入に成功した。通常、今回の研究で用いられたブタと同程度のレベルの心不全がある大型動物は数カ月以内に死亡するとHong氏らは言う。しかし、本研究で使われた4頭のブタの全てが、6カ月間の研究期間が終わるまで生存していた。 また、主要な心機能の指標の一部が改善したことから、この治療が傷ついた心臓の自己修復を促したことが示唆された。遺伝子治療を受けた心臓の血液を送り出す能力は、時間の経過とともに向上し、完全に健康なレベルに達したわけではないものの正常に近付いた。これまでの心不全治療は心機能を5~10%改善する程度であるのに対し、今回の遺伝子治療では30%の改善が認められたという。さらに、治療によって心臓の形態が改善し、心不全を引き起こした心室筋細胞におけるT管の組織化と超微細構造が回復したことが確認され、この遺伝子治療が分子レベルでも心臓の機能を改善することが示唆された。 Shaw氏は、「このように、すでにある障害が回復することは、心不全では極めて珍しいことだ。心不全研究の歴史において、このような効果は見たことはない。まるで天と地ほどの違いがある」と同氏は言う。 Hong氏らは、製薬会社のTikkunLev Therapeutics社とともに遺伝子治療をヒトに使用する準備を進めており、2025年秋までには米食品医薬品局(FDA)に臨床試験の承認を申請する予定としている。Hong氏は、「生理学的に人間と近い大型動物から得られたデータを見ると、600万人以上の米国人が罹患しているこの人間の疾患は、もしかしたら治癒に導くことのできる疾患であるかもしれないと思わざるを得ない」と述べている。(HealthDay News 2024年12月10日) https://www.healthday.com/health-news/cardiovascular-diseases/gene-therapy-reverses-heart-failure-in-pig-trials Copyright © 2024 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock