「目は心の窓」と言われるが、目は術後せん妄リスクのある高齢患者を見つけるのにも役立つ可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。網膜の中心部にある黄斑部が厚い高齢者は、術後せん妄の発症リスクが約60%高いことが示されたという。同済大学(中国)医学部教授のYuan Shen氏らによるこの研究の詳細は、「General Psychiatry」に4月1日掲載された。Shen氏は、「本研究結果は、黄斑部の厚みを非侵襲的なマーカーとして、麻酔および手術後にせん妄を発症しやすい高齢者を特定できる可能性があることを示唆している」と話している。 米国医師会(AMA)によると、高齢患者の約26%が術後せん妄を発症する。米ミシガン州の内科医Amit Ghose氏は、2023年にAMAに発表された記事の中で、4時間に及ぶ心臓手術後に術後せん妄に襲われた自身の経験を振り返った。Ghose氏は、目を覚ましたときには頭が混乱しており、「私は、『なぜ私はランシングで患者の診察をしていないのだろう』と自問した」と回想する。同氏は、家族の質問に正しく答えることができず、オピオイド系鎮痛薬はせん妄状態を悪化させただけだった。症状が治まるまで数日かかったという。 研究グループは、術後せん妄を発症した患者は、入院期間が長くなり、退院後も自宅でのサポートが必要になる可能性が高いと説明する。また、認知機能低下や認知症のリスクも高まる。しかし残念ながら、術後せん妄のリスクがある人を特定するための簡便な検査は存在しない。ただ、過去の研究で、視力障害が術後せん妄の独立したリスク因子であることや、網膜の厚さが認知障害やアルツハイマー病のリスクと関連していることが示されている。網膜は目の奥にある細胞層で、角膜と水晶体を経由して入ってきた光を電気信号に変換し、視神経を通して脳に送る役割を果たしている。 今回、Shen氏らは、全身麻酔下で膝関節や股関節の置換手術、腎臓や前立腺の手術を受ける予定の65歳以上の患者169人(平均年齢71.15歳)を対象に、網膜の厚さと術後せん妄の発症リスクとの関係を検討した。手術の前に、光干渉断層撮影(OCT)により対象者の目の黄斑部の厚さと網膜神経線維層(RNFL)の厚さを測定した。また術後3日間は、せん妄のスクリーニングや診断に用いられるツールであるConfusion Assessment Method(CAM)とCAM-severity(CAM-S)を用いてせん妄の有無とその重症度の評価を行った。 手術後に40人(24%)がせん妄を発症した。術後せん妄を発症した患者では、発症しなかった患者に比べて黄斑部の厚さが有意に厚いことが明らかになった(厚さの平均値は283.35μm対273.84μm、P=0.013)。また、術前に右目黄斑部の厚さが厚いことは、術後せん妄の発症リスクの増加(調整オッズ比1.593、95%信頼区間〔CI〕1.093〜2.322、P=0.015)、およびせん妄の重症度の上昇(CAM-Sスコアの調整平均差0.256、95%CI 0.037〜0.476、P=0.022)と関連することも示された。 この研究では、黄斑部の厚みの増加と術後せん妄リスクとの間の直接的な因果関係を証明することはできない。それでも研究グループは、「本研究で得た知見は、より大規模な研究でさらに検討する価値があるほど強力であり、せん妄の術前検査につながる可能性がある」と述べている。 なお、米国老年医学会(AGS)によると、術後せん妄は予防可能だという。AGSは予防のための有効な手段として、毎日複数回歩かせること、時間と居場所を思い出させること、夜間に中断なく眠れるようにすること、水分補給を徹底させること、眼鏡や補聴器を持たせること、カテーテルの使用を避けることなどを挙げている。(HealthDay News 2025年4月2日) https://www.healthday.com/health-news/senior-health/eye-exam-can-assess-risk-of-delirium-following-surgery Copyright © 2025 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock
「目は心の窓」と言われるが、目は術後せん妄リスクのある高齢患者を見つけるのにも役立つ可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。網膜の中心部にある黄斑部が厚い高齢者は、術後せん妄の発症リスクが約60%高いことが示されたという。同済大学(中国)医学部教授のYuan Shen氏らによるこの研究の詳細は、「General Psychiatry」に4月1日掲載された。Shen氏は、「本研究結果は、黄斑部の厚みを非侵襲的なマーカーとして、麻酔および手術後にせん妄を発症しやすい高齢者を特定できる可能性があることを示唆している」と話している。 米国医師会(AMA)によると、高齢患者の約26%が術後せん妄を発症する。米ミシガン州の内科医Amit Ghose氏は、2023年にAMAに発表された記事の中で、4時間に及ぶ心臓手術後に術後せん妄に襲われた自身の経験を振り返った。Ghose氏は、目を覚ましたときには頭が混乱しており、「私は、『なぜ私はランシングで患者の診察をしていないのだろう』と自問した」と回想する。同氏は、家族の質問に正しく答えることができず、オピオイド系鎮痛薬はせん妄状態を悪化させただけだった。症状が治まるまで数日かかったという。 研究グループは、術後せん妄を発症した患者は、入院期間が長くなり、退院後も自宅でのサポートが必要になる可能性が高いと説明する。また、認知機能低下や認知症のリスクも高まる。しかし残念ながら、術後せん妄のリスクがある人を特定するための簡便な検査は存在しない。ただ、過去の研究で、視力障害が術後せん妄の独立したリスク因子であることや、網膜の厚さが認知障害やアルツハイマー病のリスクと関連していることが示されている。網膜は目の奥にある細胞層で、角膜と水晶体を経由して入ってきた光を電気信号に変換し、視神経を通して脳に送る役割を果たしている。 今回、Shen氏らは、全身麻酔下で膝関節や股関節の置換手術、腎臓や前立腺の手術を受ける予定の65歳以上の患者169人(平均年齢71.15歳)を対象に、網膜の厚さと術後せん妄の発症リスクとの関係を検討した。手術の前に、光干渉断層撮影(OCT)により対象者の目の黄斑部の厚さと網膜神経線維層(RNFL)の厚さを測定した。また術後3日間は、せん妄のスクリーニングや診断に用いられるツールであるConfusion Assessment Method(CAM)とCAM-severity(CAM-S)を用いてせん妄の有無とその重症度の評価を行った。 手術後に40人(24%)がせん妄を発症した。術後せん妄を発症した患者では、発症しなかった患者に比べて黄斑部の厚さが有意に厚いことが明らかになった(厚さの平均値は283.35μm対273.84μm、P=0.013)。また、術前に右目黄斑部の厚さが厚いことは、術後せん妄の発症リスクの増加(調整オッズ比1.593、95%信頼区間〔CI〕1.093〜2.322、P=0.015)、およびせん妄の重症度の上昇(CAM-Sスコアの調整平均差0.256、95%CI 0.037〜0.476、P=0.022)と関連することも示された。 この研究では、黄斑部の厚みの増加と術後せん妄リスクとの間の直接的な因果関係を証明することはできない。それでも研究グループは、「本研究で得た知見は、より大規模な研究でさらに検討する価値があるほど強力であり、せん妄の術前検査につながる可能性がある」と述べている。 なお、米国老年医学会(AGS)によると、術後せん妄は予防可能だという。AGSは予防のための有効な手段として、毎日複数回歩かせること、時間と居場所を思い出させること、夜間に中断なく眠れるようにすること、水分補給を徹底させること、眼鏡や補聴器を持たせること、カテーテルの使用を避けることなどを挙げている。(HealthDay News 2025年4月2日) https://www.healthday.com/health-news/senior-health/eye-exam-can-assess-risk-of-delirium-following-surgery Copyright © 2025 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock