米ミシガン州レッドフォード在住のTiffiney Beardさん(46歳)は、2024年4月に唾液腺の希少がんと診断されて以来、困難な道のりが待ち受けていることを覚悟していた。Beardさんが罹患した腺様嚢胞がんは神経に浸潤する傾向があるため、治療の副作用として、倦怠感、顎の痛み、食事や嚥下の困難、味覚の喪失、頭痛、記憶障害などを伴うのが常だからだ。Beardさんの場合、がんが脳につながる神経にまで浸潤していたことが事態をさらに悪化させていた。 Beardさんの担当医は、頭頸部がんに使用するのは米国で初めてとなる高度な放射線治療(陽子線治療)を行った。その結果、治療中にBeardさんに副作用が出ることはなかったという。Beardさんは、「ガムボールほどの大きさの腫瘍の摘出後、合計33回の陽子線治療を受けたが、副作用は全くなく、仕事を休むこともなかった」とニュースリリースで述べている。米コアウェル・ヘルス・ウィリアム・ボーモント大学病院のRohan Deraniyagala氏らが報告したこの治療成功症例の詳細は、「International Journal of Particle Therapy」6月号に掲載された。 従来の放射線治療では、高エネルギーX線などの光子線を用いてがん細胞を死滅させるのに対し、陽子線治療では、正に帯電した水素原子の原子核(陽子)を加速器で加速させて作ったビーム(陽子線)を、がん細胞周囲の健康な組織や臓器へのダメージを極力抑えながらより正確に照射して、がん細胞を死滅させることができる。 近年、最新の放射線治療として、照射装置を回転させながら(アーク照射法)細い陽子線を腫瘍に動的に照射する「動的スポットスキャニング法による陽子アーク治療(Dynamic spot-scanning proton arc therapy)」が注目を集めているが、病院への導入は進んでいない。一方、Beardさんに実施された陽子線治療は、照射装置の回転を一定の角度で停止させて陽子線を照射する、step and shoot方式のスポットスキャニング法による陽子アーク治療である(step-and-shoot spot-scanning proton arc therapy、以下、step and shootスポットスキャンアーク治療)。 Beardさんの治療は2024年6月に開始され、3カ月間、週5日、1日30分行われた。治療は2024年8月初旬に完了した。それ以来、Beardさんはがんを克服した状態を維持している。また、研究グループによると、脳を含む体の他の部位における放射線毒性も確認されていないという。 Deraniyagala氏は、「この治療により顔の左側の皮膚が少し変色したが、喜ばしいことに、それ以外の副作用が出ることはなかった」と語る。 Deraniyagala氏はまた、他の患者もこの治療によりBeardさんと同じ結果を得ることに期待を示している。同氏は、「陽子線治療は急速に進化し続けている。Beardさんの症例では、step and shootスポットスキャンアーク治療が非常に効果的であることが示されたが、これはさらに優れた治療法の開発に向けた最新のステップに過ぎない。Beardさんがほとんど副作用を経験しなかったという事実は、この種の治療法にとって素晴らしい成果であり、今後さらに良いことが起こるという良い兆候だ」と述べている。(HealthDay News 2025年5月6日) https://www.healthday.com/health-news/cancer/cancer-patient-avoided-side-effects-with-new-advance-in-radiation-therapy Copyright © 2025 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock/Lyudmila
米ミシガン州レッドフォード在住のTiffiney Beardさん(46歳)は、2024年4月に唾液腺の希少がんと診断されて以来、困難な道のりが待ち受けていることを覚悟していた。Beardさんが罹患した腺様嚢胞がんは神経に浸潤する傾向があるため、治療の副作用として、倦怠感、顎の痛み、食事や嚥下の困難、味覚の喪失、頭痛、記憶障害などを伴うのが常だからだ。Beardさんの場合、がんが脳につながる神経にまで浸潤していたことが事態をさらに悪化させていた。 Beardさんの担当医は、頭頸部がんに使用するのは米国で初めてとなる高度な放射線治療(陽子線治療)を行った。その結果、治療中にBeardさんに副作用が出ることはなかったという。Beardさんは、「ガムボールほどの大きさの腫瘍の摘出後、合計33回の陽子線治療を受けたが、副作用は全くなく、仕事を休むこともなかった」とニュースリリースで述べている。米コアウェル・ヘルス・ウィリアム・ボーモント大学病院のRohan Deraniyagala氏らが報告したこの治療成功症例の詳細は、「International Journal of Particle Therapy」6月号に掲載された。 従来の放射線治療では、高エネルギーX線などの光子線を用いてがん細胞を死滅させるのに対し、陽子線治療では、正に帯電した水素原子の原子核(陽子)を加速器で加速させて作ったビーム(陽子線)を、がん細胞周囲の健康な組織や臓器へのダメージを極力抑えながらより正確に照射して、がん細胞を死滅させることができる。 近年、最新の放射線治療として、照射装置を回転させながら(アーク照射法)細い陽子線を腫瘍に動的に照射する「動的スポットスキャニング法による陽子アーク治療(Dynamic spot-scanning proton arc therapy)」が注目を集めているが、病院への導入は進んでいない。一方、Beardさんに実施された陽子線治療は、照射装置の回転を一定の角度で停止させて陽子線を照射する、step and shoot方式のスポットスキャニング法による陽子アーク治療である(step-and-shoot spot-scanning proton arc therapy、以下、step and shootスポットスキャンアーク治療)。 Beardさんの治療は2024年6月に開始され、3カ月間、週5日、1日30分行われた。治療は2024年8月初旬に完了した。それ以来、Beardさんはがんを克服した状態を維持している。また、研究グループによると、脳を含む体の他の部位における放射線毒性も確認されていないという。 Deraniyagala氏は、「この治療により顔の左側の皮膚が少し変色したが、喜ばしいことに、それ以外の副作用が出ることはなかった」と語る。 Deraniyagala氏はまた、他の患者もこの治療によりBeardさんと同じ結果を得ることに期待を示している。同氏は、「陽子線治療は急速に進化し続けている。Beardさんの症例では、step and shootスポットスキャンアーク治療が非常に効果的であることが示されたが、これはさらに優れた治療法の開発に向けた最新のステップに過ぎない。Beardさんがほとんど副作用を経験しなかったという事実は、この種の治療法にとって素晴らしい成果であり、今後さらに良いことが起こるという良い兆候だ」と述べている。(HealthDay News 2025年5月6日) https://www.healthday.com/health-news/cancer/cancer-patient-avoided-side-effects-with-new-advance-in-radiation-therapy Copyright © 2025 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock/Lyudmila