BRCA1遺伝子かBRCA2遺伝子のいずれかまたはその両方に病的バリアントを有する乳がんサバイバーでは、卵巣と卵管を摘出することで死亡リスクが劇的に低下する可能性のあることが、新たな研究で明らかにされた。この研究では、両側卵管卵巣摘出術(BSO)を受けた乳がんサバイバーで、死亡リスクが48%低かったことが示されたという。英ケンブリッジ大学がん遺伝疫学センターのHend Hassan氏らによるこの研究結果は、「The Lancet Oncology」に5月7日掲載された。 BRCA1/2遺伝子の病的バリアント保持者は、乳がんと卵巣がんの発症リスクが高くなるため、一般的には乳がん罹患歴の有無に関わりなくBSOを行い、卵巣がんリスクを軽減することが推奨されている。しかし、卵巣と卵管の摘出は急激な閉経を引き起こし、それに伴う心血管疾患やうつ病などのリスク上昇が懸念されている。 今回の研究では、BRCA1/2遺伝子の病的バリアント保持者で1995年から2019年の間に乳がんの診断を受けた20〜75歳の女性3,423人を対象に、BSOと長期健康アウトカムの関連を検討した。病的バリアント保持者の内訳は、BRCA1遺伝子が1,674人、BRCA2遺伝子が1,740人、両遺伝子が9人だった。このうち1,855人がBSOを受けており、遺伝的バリアント別に見た内訳は、BRCA1遺伝子851人(50.8%)、BRCA2遺伝子1,001人(57.5%)、両遺伝子3人(33.3%)だった。追跡期間中央値は5.5年だった。 解析の結果、BSOを受けた女性では受けなかった女性に比べて全死亡リスクが48%(ハザード比0.52、95%信頼区間0.41〜0.64)、乳がん関連死亡リスクが45%(同0.55、0.42〜0.70)低いことが示された。リスク低下は、BRCA2遺伝子の病的バリアント保持者で、BRCA1遺伝子の病的バリアント保持者よりも顕著だった(全死亡:56%対38%、乳がん関連死亡:52%対38%)。また、BSOを受けた女性では、乳がん以外のがん(2次がん)の再発リスクも41%有意に低かった(同0.59、0.37〜0.94)。一方、BSOと心血管疾患や脳卒中、うつ病との間に有意な関連は認められなかった。 こうした結果を受けて研究グループは、本研究で認められたリスク低下の全てがBSOに起因すると言うことはできないものの、その可能性を強く示唆する結果だとの見方を示している。 Hassan氏は、「BSOを行うことで卵巣がんリスクが劇的に低下することは分かっているが、一方で、突然の閉経が予期せぬ結果をもたらす可能性が懸念されていた」とケンブリッジ大学のニュースリリースの中で述べている。そして、「本研究では、BRCA1/2遺伝子の病的バリアントを有し、乳がんの既往歴がある女性において、BSOが心臓病やうつ病などの副作用をもたらす可能性は低く、逆に生存率の向上やがんリスクの低下の点で利点をもたらす可能性があるという、安堵をもたらす結果が示された」と述べている。 一方、本論文の上席著者であるケンブリッジ大学公衆衛生・プライマリケア学部のAntonis Antoniou氏は、「本研究結果は、BRCA1/2遺伝子の病的バリアントに関連するがんに罹患した女性に対するカウンセリングにおいて重要な知見となるだろう。この知見に基づくことで、BSOの実施について十分な情報に基づいた決定を下すことができるようになるはずだ」とニュースリリースで述べている。(HealthDay News 2025年5月9日) https://www.healthday.com/health-news/cancer/ovary-removal-reduces-death-cancer-risk-among-genetically-prone-breast-cancer-survivors Copyright © 2025 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock
BRCA1遺伝子かBRCA2遺伝子のいずれかまたはその両方に病的バリアントを有する乳がんサバイバーでは、卵巣と卵管を摘出することで死亡リスクが劇的に低下する可能性のあることが、新たな研究で明らかにされた。この研究では、両側卵管卵巣摘出術(BSO)を受けた乳がんサバイバーで、死亡リスクが48%低かったことが示されたという。英ケンブリッジ大学がん遺伝疫学センターのHend Hassan氏らによるこの研究結果は、「The Lancet Oncology」に5月7日掲載された。 BRCA1/2遺伝子の病的バリアント保持者は、乳がんと卵巣がんの発症リスクが高くなるため、一般的には乳がん罹患歴の有無に関わりなくBSOを行い、卵巣がんリスクを軽減することが推奨されている。しかし、卵巣と卵管の摘出は急激な閉経を引き起こし、それに伴う心血管疾患やうつ病などのリスク上昇が懸念されている。 今回の研究では、BRCA1/2遺伝子の病的バリアント保持者で1995年から2019年の間に乳がんの診断を受けた20〜75歳の女性3,423人を対象に、BSOと長期健康アウトカムの関連を検討した。病的バリアント保持者の内訳は、BRCA1遺伝子が1,674人、BRCA2遺伝子が1,740人、両遺伝子が9人だった。このうち1,855人がBSOを受けており、遺伝的バリアント別に見た内訳は、BRCA1遺伝子851人(50.8%)、BRCA2遺伝子1,001人(57.5%)、両遺伝子3人(33.3%)だった。追跡期間中央値は5.5年だった。 解析の結果、BSOを受けた女性では受けなかった女性に比べて全死亡リスクが48%(ハザード比0.52、95%信頼区間0.41〜0.64)、乳がん関連死亡リスクが45%(同0.55、0.42〜0.70)低いことが示された。リスク低下は、BRCA2遺伝子の病的バリアント保持者で、BRCA1遺伝子の病的バリアント保持者よりも顕著だった(全死亡:56%対38%、乳がん関連死亡:52%対38%)。また、BSOを受けた女性では、乳がん以外のがん(2次がん)の再発リスクも41%有意に低かった(同0.59、0.37〜0.94)。一方、BSOと心血管疾患や脳卒中、うつ病との間に有意な関連は認められなかった。 こうした結果を受けて研究グループは、本研究で認められたリスク低下の全てがBSOに起因すると言うことはできないものの、その可能性を強く示唆する結果だとの見方を示している。 Hassan氏は、「BSOを行うことで卵巣がんリスクが劇的に低下することは分かっているが、一方で、突然の閉経が予期せぬ結果をもたらす可能性が懸念されていた」とケンブリッジ大学のニュースリリースの中で述べている。そして、「本研究では、BRCA1/2遺伝子の病的バリアントを有し、乳がんの既往歴がある女性において、BSOが心臓病やうつ病などの副作用をもたらす可能性は低く、逆に生存率の向上やがんリスクの低下の点で利点をもたらす可能性があるという、安堵をもたらす結果が示された」と述べている。 一方、本論文の上席著者であるケンブリッジ大学公衆衛生・プライマリケア学部のAntonis Antoniou氏は、「本研究結果は、BRCA1/2遺伝子の病的バリアントに関連するがんに罹患した女性に対するカウンセリングにおいて重要な知見となるだろう。この知見に基づくことで、BSOの実施について十分な情報に基づいた決定を下すことができるようになるはずだ」とニュースリリースで述べている。(HealthDay News 2025年5月9日) https://www.healthday.com/health-news/cancer/ovary-removal-reduces-death-cancer-risk-among-genetically-prone-breast-cancer-survivors Copyright © 2025 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock