背中に貼り付けたグリッド電極が近い将来、痛みやけいれん、麻痺の治療に役立つ可能性のあることが、新たな研究で示された。この電極を通じて皮膚の上から低電圧の電気刺激を与えることで、脊髄内の神経の機能を短期間、変化させることができたという。米テキサス大学(UT)サウスウェスタン医療センター物理療法学・リハビリテーション医学教授のYasin Dhaher氏らによるこの研究の詳細は、「Journal of Neural Engineering」に4月7日掲載された。 論文の上席著者であるDhaher氏は、体の外側に設置した電極を使って脊髄神経の興奮性を調整できるこの方法は、「侵襲的な脊髄刺激療法を受けられない患者や希望しない患者にとって、有望な代替手段になり得る」とUTのニュースリリースの中で述べている。 研究グループによると、これまでの研究では、体内に埋め込むタイプの電極が脊髄損傷患者の立つ能力や歩く能力の回復を促すなど、麻痺の治療で大きな可能性を持っていることが示されてきた。こうした埋め込み型デバイスは電気で脊髄神経を刺激することで作用するが、埋め込むにはリスクのある手術が必要となり、回復にも時間がかかるという。一方、皮膚に貼り付けた電極で電気刺激を与える試みも以前から行われてきたが、貼り付けた電極パッドが背中全体に電流を広く分散させてしまい、十分な刺激を脊髄に届けられなかったため、効果は限定的であったとDhaher氏らは述べている。 今回報告された新たなアプローチでは、電流を脊髄に対して直線または斜め方向に流せるような配置で4インチ(約10cm)四方の電極パッドを作った。脊髄神経はさまざまな方向に走っているため、このような配置にすることで電気パルスをさまざまな神経の走行パターンに合わせやすくなるとDhaher氏らは考えたのだ。 Dhaher氏らは、健康な17人を対象に胸郭下部の椎骨(T10–T11)の皮膚の上にこの電極パッドを配置して効果を調べた。この部分は、足首を引き上げるなどの足関節の動きに関与する筋肉である前脛骨筋を制御している。実験では、スマートフォンの懐中電灯を点灯させるのに必要な電力の約半分に相当する40mAの低電流を20分間流した。 その結果、この電圧は前脛骨筋を収縮させるほどの刺激にはならないものの、神経細胞の興奮性を変化させることは確認された。その後、最長で30分間、神経の興奮性が低下し、被験者はそれまでよりも足首を曲げるのが難しくなったと感じたという。また、電流を脊髄に対して斜めに流したときの方が、直線的に流したときよりも抑制作用が強くなったこともDhaher氏らは報告している。こうした抑制作用は、筋肉のけいれんの治療や痛みのシグナルの軽減に役立つ可能性があると同氏らは説明している。 一方で、この新たな電極パッドは神経の興奮性を高めるような電気パルスを送ることもできる可能性があり、それによって筋肉をより動かしやすくする効果も期待されている。例えば、足首を曲げる動きを改善するために同じ神経群を刺激することで、歩行時に足のつま先を引きずってしまう「下垂足」と呼ばれる症状の治療に役立つ可能性があるという。 Dhaher氏らはこの新たなデザインの電極パッドについて特許を出願済みであり、今後もその潜在的な使用法について研究を続けていく予定だとしている。(HealthDay News 2025年5月28日) https://www.healthday.com/health-news/neurology/new-electrode-design-might-help-spasms-pain-paralysis Copyright © 2025 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock
背中に貼り付けたグリッド電極が近い将来、痛みやけいれん、麻痺の治療に役立つ可能性のあることが、新たな研究で示された。この電極を通じて皮膚の上から低電圧の電気刺激を与えることで、脊髄内の神経の機能を短期間、変化させることができたという。米テキサス大学(UT)サウスウェスタン医療センター物理療法学・リハビリテーション医学教授のYasin Dhaher氏らによるこの研究の詳細は、「Journal of Neural Engineering」に4月7日掲載された。 論文の上席著者であるDhaher氏は、体の外側に設置した電極を使って脊髄神経の興奮性を調整できるこの方法は、「侵襲的な脊髄刺激療法を受けられない患者や希望しない患者にとって、有望な代替手段になり得る」とUTのニュースリリースの中で述べている。 研究グループによると、これまでの研究では、体内に埋め込むタイプの電極が脊髄損傷患者の立つ能力や歩く能力の回復を促すなど、麻痺の治療で大きな可能性を持っていることが示されてきた。こうした埋め込み型デバイスは電気で脊髄神経を刺激することで作用するが、埋め込むにはリスクのある手術が必要となり、回復にも時間がかかるという。一方、皮膚に貼り付けた電極で電気刺激を与える試みも以前から行われてきたが、貼り付けた電極パッドが背中全体に電流を広く分散させてしまい、十分な刺激を脊髄に届けられなかったため、効果は限定的であったとDhaher氏らは述べている。 今回報告された新たなアプローチでは、電流を脊髄に対して直線または斜め方向に流せるような配置で4インチ(約10cm)四方の電極パッドを作った。脊髄神経はさまざまな方向に走っているため、このような配置にすることで電気パルスをさまざまな神経の走行パターンに合わせやすくなるとDhaher氏らは考えたのだ。 Dhaher氏らは、健康な17人を対象に胸郭下部の椎骨(T10–T11)の皮膚の上にこの電極パッドを配置して効果を調べた。この部分は、足首を引き上げるなどの足関節の動きに関与する筋肉である前脛骨筋を制御している。実験では、スマートフォンの懐中電灯を点灯させるのに必要な電力の約半分に相当する40mAの低電流を20分間流した。 その結果、この電圧は前脛骨筋を収縮させるほどの刺激にはならないものの、神経細胞の興奮性を変化させることは確認された。その後、最長で30分間、神経の興奮性が低下し、被験者はそれまでよりも足首を曲げるのが難しくなったと感じたという。また、電流を脊髄に対して斜めに流したときの方が、直線的に流したときよりも抑制作用が強くなったこともDhaher氏らは報告している。こうした抑制作用は、筋肉のけいれんの治療や痛みのシグナルの軽減に役立つ可能性があると同氏らは説明している。 一方で、この新たな電極パッドは神経の興奮性を高めるような電気パルスを送ることもできる可能性があり、それによって筋肉をより動かしやすくする効果も期待されている。例えば、足首を曲げる動きを改善するために同じ神経群を刺激することで、歩行時に足のつま先を引きずってしまう「下垂足」と呼ばれる症状の治療に役立つ可能性があるという。 Dhaher氏らはこの新たなデザインの電極パッドについて特許を出願済みであり、今後もその潜在的な使用法について研究を続けていく予定だとしている。(HealthDay News 2025年5月28日) https://www.healthday.com/health-news/neurology/new-electrode-design-might-help-spasms-pain-paralysis Copyright © 2025 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock