朝のコーヒーは活力をもたらしてくれるが、夜にコーヒーを飲んで眠りにくくなったことはないだろうか。新たな研究で、カフェインは睡眠中の脳の電気的信号の複雑性を増大させ、「臨界状態」に近付けることが示された。臨界状態とは秩序と無秩序の境目にある状態で、脳が外からの刺激に最も敏感に反応し、最も適応力が高く、情報処理の効率も最大になると考えられている。モントリオール大学(カナダ)のPhilipp Thölke氏らによるこの研究の詳細は、「Nature Communications Biology」に4月30日掲載された。 Thölke氏らは40人の健康な成人を対象に、脳波計(EEG)と人工知能(AI)を用いて、睡眠中の脳に対するカフェインの影響を分析した。試験参加者は、就寝前にカフェイン200mg(コーヒー1〜2杯に相当)を含んだカプセルまたはプラセボを摂取した。 その結果、カフェインは脳の電気的信号の複雑性を増大させ、それにより神経活動はより多様で柔軟になることが示された。また、カフェイン摂取により脳活動のパターンは臨界状態に近付き、脳の電気的リズムにも顕著な変化が見られた。具体的には、精神的な集中や覚醒状態に関係するベータ波は増大する一方で、回復に導く深い睡眠に関係するシータ波やアルファ波などのより遅い脳波は抑制されることが明らかになった。こうした変化は、特に、記憶の定着と認知機能の回復に重要なノンレム睡眠中に顕著であった。 さらに、こうしたカフェインの影響は、レム睡眠中の20〜27歳の若年層において、41~58歳の中年層よりも顕著に現れた。この違いは、眠気を引き起こす脳内の神経伝達物質であるアデノシン受容体の変化に起因する可能性があるという。共著者の1人であるカナディアン・スリープ・アンド・サーカディアン・ネットワーク会長のJulie Carrier氏は、カフェインはアデノシン受容体を阻害することで覚醒状態を保つが、若年層はこれらの受容体を多く持っているため、カフェインの刺激作用がより強く現れる可能性があると指摘している。同氏は、「アデノシン受容体は加齢に伴い自然に減少するため、それらを阻害して脳の複雑性を改善するカフェインの作用も弱まる。これが中年層でカフェインの影響が減弱する一因かもしれない」と話している。 Carrier氏は、就寝前のカフェイン摂取により就寝中に脳が臨界状態に近付くことが示された点について、「この状態は日中に集中力を高めるには有用だが、夜間の休息を妨げる可能性がある。脳はリラックスできないため、十分な回復は望めないだろう」と言う。一方、論文の上席著者であるモントリオール大学心理学教授および同大学認知・計算論的神経科学研究所所長のKarim Jerbi氏は、「本研究結果は、睡眠中であってもカフェインの影響下では脳がより活性化し、回復力が低下した状態にあることを示唆している。脳のリズミカルな活動の変化は、カフェインが脳の記憶の処理や夜間の回復効率に影響を与える可能性を説明するのに役立つかもしれない」と述べている。 研究グループは、カフェインが脳の健康に与える長期的な影響についてより深く理解し、年齢層ごとに個別化された推奨を導き出すために、さらなる研究が必要であるとしている。(HealthDay News 2025年6月1日) https://www.healthday.com/a-to-z-health/sleep-disorder/how-caffeine-affects-your-brain-while-you-sleep Copyright © 2025 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Shutterstock