経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を受け、抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)を終えた患者には、一般的には血栓を予防するためにアスピリンによる単剤療法が行われる。しかし新たな研究で、アスピリンよりもチカグレロルやクロピドグレルなどのP2Y12阻害薬による単剤療法の方が心筋梗塞や脳卒中などの心血管イベントを有意に減らす可能性のあることが示された。P2Y12阻害薬は、血小板表面の受容体を阻害することで血小板の凝集能を低下させ、血栓形成を防ぐ作用を持つ。Cardiocentro Ticino研究所(スイス)のMarco Valgimigli氏らによるこの研究結果は、「The BMJ」に6月4日掲載された。 心臓の動脈が狭くなったり詰まったりした患者に対しては、動脈を開いた状態に保つために血管内部にステントを挿入するPCIが行われることが多い。PCI後は、留置されたステント内での血栓形成(ステント血栓症)を防ぐために、P2Y12阻害薬とアスピリンを用いたDAPTが行われる。DAPTを終えた患者は、生涯にわたりアスピリンによる単剤療法を受けるのが一般的だが、これまでいくつかの研究で、アスピリンよりもP2Y12阻害薬の方が心血管イベントの予防に有効であることが示唆されていた。 Valgimigli氏らは、過去に実施された5件の臨床試験の結果を統合して、PCI後のDAPTを完了した患者に対するP2Y12阻害薬による単独療法とアスピリンによる単独療法の長期的な効果を比較検討した。対象者の総計は1万6,117人(P2Y12阻害薬群8,075人、アスピリン群8,042人)、DAPTの期間中央値は12カ月で、追跡期間中央値は1,351日だった。心血管死、心筋梗塞、脳卒中から成る主要心血管・脳血管イベント(MACCE)の複合と大出血を共主要評価項目、MACCEと大出血を組み合わせたネット複合アウトカム(NACCE)、および全死因死亡や心筋梗塞、脳卒中、脳梗塞など個別アウトカムを副次評価項目とした。 解析の結果、P2Y12阻害薬群ではアスピリン群と比べて、追跡期間におけるMACCEリスクが23%有意に低いことが示された(調整ハザード比0.77、P<0.001)。これは、P2Y12阻害薬による単剤療法を45.5人に実施することで1件のMACCEを防げることを意味する。大出血のリスクについては、両群間で有意な差は認められなかった。副次評価項目に関する解析では、NACCE(同0.85、P=0.04)と、個別アウトカムのうち心筋梗塞(同0.69、P=0.001)、脳卒中(同0.67、P=0.004)、脳梗塞(同0.64、P=0.007)については、P2Y12群の方が統計学的に有意に低かった。 これらの結果からValgimigli氏らは、「5.5年にわたり患者を追跡した本研究において、P2Y12阻害薬はアスピリンと比較して、心血管死、心筋梗塞、または脳卒中の発生、およびMACCEと出血の両方を含むネット複合アウトカムの発生を抑制することが示された」と結論付けている。 これに対し、付随論評の著者の1人である英インペリアル・カレッジ・ロンドンのRohin Reddy氏は、この研究が抗凝固薬の有効性を示していることに同意を示しつつも、アスピリンをP2Y12阻害薬に切り替えるのは時期尚早だとの見解を示している。同氏は、「現時点では適応外とはいえ、クロピドグレルは依然としてアスピリンよりも高価であり、費用対効果をより良く理解するには、包括的な医療経済評価が必要だ」と指摘する。さらに付随論評では、「中期的な効果が生涯にわたって続くとは限らない。しかしわれわれは、薬を一生服用するよう患者を指導している」とし、アスピリンと比較したP2Y12阻害薬の長期的な有効性と安全性についてさらなる研究が必要だとの考えが示されている。(HealthDay News 2025年6月6日) https://www.healthday.com/health-news/cardiovascular-diseases/theres-a-better-clot-preventing-option-than-aspirin-researchers-say Copyright © 2025 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock
経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を受け、抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)を終えた患者には、一般的には血栓を予防するためにアスピリンによる単剤療法が行われる。しかし新たな研究で、アスピリンよりもチカグレロルやクロピドグレルなどのP2Y12阻害薬による単剤療法の方が心筋梗塞や脳卒中などの心血管イベントを有意に減らす可能性のあることが示された。P2Y12阻害薬は、血小板表面の受容体を阻害することで血小板の凝集能を低下させ、血栓形成を防ぐ作用を持つ。Cardiocentro Ticino研究所(スイス)のMarco Valgimigli氏らによるこの研究結果は、「The BMJ」に6月4日掲載された。 心臓の動脈が狭くなったり詰まったりした患者に対しては、動脈を開いた状態に保つために血管内部にステントを挿入するPCIが行われることが多い。PCI後は、留置されたステント内での血栓形成(ステント血栓症)を防ぐために、P2Y12阻害薬とアスピリンを用いたDAPTが行われる。DAPTを終えた患者は、生涯にわたりアスピリンによる単剤療法を受けるのが一般的だが、これまでいくつかの研究で、アスピリンよりもP2Y12阻害薬の方が心血管イベントの予防に有効であることが示唆されていた。 Valgimigli氏らは、過去に実施された5件の臨床試験の結果を統合して、PCI後のDAPTを完了した患者に対するP2Y12阻害薬による単独療法とアスピリンによる単独療法の長期的な効果を比較検討した。対象者の総計は1万6,117人(P2Y12阻害薬群8,075人、アスピリン群8,042人)、DAPTの期間中央値は12カ月で、追跡期間中央値は1,351日だった。心血管死、心筋梗塞、脳卒中から成る主要心血管・脳血管イベント(MACCE)の複合と大出血を共主要評価項目、MACCEと大出血を組み合わせたネット複合アウトカム(NACCE)、および全死因死亡や心筋梗塞、脳卒中、脳梗塞など個別アウトカムを副次評価項目とした。 解析の結果、P2Y12阻害薬群ではアスピリン群と比べて、追跡期間におけるMACCEリスクが23%有意に低いことが示された(調整ハザード比0.77、P<0.001)。これは、P2Y12阻害薬による単剤療法を45.5人に実施することで1件のMACCEを防げることを意味する。大出血のリスクについては、両群間で有意な差は認められなかった。副次評価項目に関する解析では、NACCE(同0.85、P=0.04)と、個別アウトカムのうち心筋梗塞(同0.69、P=0.001)、脳卒中(同0.67、P=0.004)、脳梗塞(同0.64、P=0.007)については、P2Y12群の方が統計学的に有意に低かった。 これらの結果からValgimigli氏らは、「5.5年にわたり患者を追跡した本研究において、P2Y12阻害薬はアスピリンと比較して、心血管死、心筋梗塞、または脳卒中の発生、およびMACCEと出血の両方を含むネット複合アウトカムの発生を抑制することが示された」と結論付けている。 これに対し、付随論評の著者の1人である英インペリアル・カレッジ・ロンドンのRohin Reddy氏は、この研究が抗凝固薬の有効性を示していることに同意を示しつつも、アスピリンをP2Y12阻害薬に切り替えるのは時期尚早だとの見解を示している。同氏は、「現時点では適応外とはいえ、クロピドグレルは依然としてアスピリンよりも高価であり、費用対効果をより良く理解するには、包括的な医療経済評価が必要だ」と指摘する。さらに付随論評では、「中期的な効果が生涯にわたって続くとは限らない。しかしわれわれは、薬を一生服用するよう患者を指導している」とし、アスピリンと比較したP2Y12阻害薬の長期的な有効性と安全性についてさらなる研究が必要だとの考えが示されている。(HealthDay News 2025年6月6日) https://www.healthday.com/health-news/cardiovascular-diseases/theres-a-better-clot-preventing-option-than-aspirin-researchers-say Copyright © 2025 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock