肥満を伴う閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)に対する治療法の好みは、医師と患者の間で異なることが新たな研究で示された。医師は、睡眠中に専用のマスクを介して一定の空気圧を鼻から気道に送って気道を開いた状態に保つ持続陽圧呼吸(CPAP)療法を支持する一方、患者は、肥満症治療薬の一種であるGLP-1受容体作動薬のチルゼパチド(商品名ゼップバウンド)による治療を望む傾向にあることが明らかになったという。この研究は米カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)呼吸器・集中治療・睡眠医学部門のAhmed Khalaf氏らによるもので、米国睡眠医学会(AASM)と米睡眠学会(SRC)の合弁事業であるAssociated Professional Sleep Societies, LLC(APSS)の年次総会(SLEEP 2025、6月8〜11日、米シアトル)で発表された。 Khalaf氏は、「この結果により、リアルワールドにおけるCPAP療法とチルゼパチドの相対的な有効性に関するデータの必要性、そして肥満とOSAが併存した場合の管理をめぐって患者と医師の間に選好の不一致が存在する可能性が浮き彫りになった」とニュースリリースの中で述べている。 米国では、約3000万人の成人にOSAがあると推定されている。これまで、OSAの標準治療はCPAP療法とされてきたが、使う装置の大きさや騒音を気にする患者もいる。米ハーバード大学医学大学院によると、CPAP療法を処方された患者の約50%が十分な頻度で専用の装置を使用できないか、わずらわしさから使い続けられないと感じているという。使用者がよく挙げる問題点は、マスク装着時の不快感や口の乾燥、呼吸のタイミングが合わない感覚、装置から出る音などである。 米食品医薬品局(FDA)は2024年末、肥満とOSAを有する患者に対する初の治療薬としてゼップバウンドを承認した。AASMは当時、この承認に際して「OSAに対して新たな治療選択肢が加わったことは、患者と臨床医にとって大きな前進である」とする声明を発表した。ただし、AASMは、ゼップバウンドが肥満とOSAを有する人にのみ適応されることを強調。また、ゼップバウンドは体重減少を通じてOSAの重症度を軽減する可能性はあるが、根治には至らない可能性もあるとしている。 Khalaf氏らは今回の研究で、全米規模で実施されたオンライン調査に回答した365人の患者データを分析するとともに、UCSDの睡眠医学の専門家17人を対象に聞き取り調査を実施した。その結果、医師側は53%がCPAP療法を支持し、ゼップバウンドを支持していたのは26%であったのに対し、患者側は48%がゼップバウンドを支持し、CPAP療法を支持していたのは35%だった。また、医師と患者の双方がCPAP療法とゼップバウンドによる併用療法を支持していたが、医師の方が併用療法に対してより積極的であり、その割合は患者の61%に対して88%と高かった。 さらに、患者の治療に対する好みは、自身の経験が影響している可能性が高いことも分かった。調査結果によると、患者の78%が現在CPAP療法を受けているか、過去にCPAP療法を受けたことがあると回答していた。これに対し、ゼップバウンドや他のGLP-1受容体作動薬であるセマグルチド(商品名オゼンピック)を使用したことがあると答えた患者の割合はわずか23%だった。 主任研究者でUCSD医学部助教のChristopher Schmickl氏は、患者と医師の間でこれほどまでに意見の相違があることに驚きを示している。同氏は、「治療に対する考え方の違いを認識しておくことは、現実的かつ達成可能な行動計画を立てる上で極めて重要だ。今後、こうした治療に対する選好の背景にある要因を明らかにするためのさらなる研究によって、医師が治療方針の決定を助ける価値のある情報が得られるだろう」と述べている。 なお、学会発表された研究は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。(HealthDay News 2025年6月9日) https://www.healthday.com/health-news/sleep-disorder/cpap-or-zepbound-patients-doctors-debate-sleep-apnea-treatment Copyright © 2025 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock