玄関のドアを見たときや水の流れる音を聞いたときなどに、突然尿意に襲われ、尿漏れしたことはないだろうか。米ピッツバーグ大学コンチネンス研究センターのBecky Clarkson氏らによる新たな研究で、このような切迫性尿失禁に対しては、マインドフルネスのトレーニングと電流を流して脳を刺激する治療が尿漏れの回数を減らすのに有効であることが明らかになった。この研究の詳細は、「Continence」6月号に掲載された。 論文の上席著者であるClarkson氏は「尿失禁は深刻な問題だ。トラウマにもなり得る。尿漏れへの不安から、外出して人と会ったり運動をしたりすることを避けるようになる人も多い。特に高齢者では、社会的孤立や抑うつ、機能低下につながることもある」と同大学のニュースリリースの中で述べている。 切迫性尿失禁は、特定の状況的な要因がきっかけで突然尿意が起こる状態を指す。玄関のドアを見たときなどに強い尿意を感じて尿漏れを生じる症状は、「ドアノブ尿失禁」と呼ばれることもある。Clarkson氏らは、「ドアノブ尿失禁は、パブロフの条件付けの一種だ」と説明している。つまり、自宅に帰ってきたらすぐにトイレに行く習慣を長年続けることで、玄関のドアを開けた瞬間に強い尿意を感じるように条件付けられてしまうというのだ。 Clarkson氏らは先行研究で、切迫性尿失禁と背外側前頭前野と呼ばれる脳領域が関連していることを示している。この脳領域は、切迫性尿失禁のある人が尿意を引き起こす特定の要因に直面したときに活性化していたという。Clarkson氏は、「前頭前野は膀胱の実行機能の中枢であり、『今がトイレに行くべき時だ。その場所を探せ』と指示を出す役割を果たしている」と説明している。 今回の研究でClarkson氏らは、このような脳の反応を抑える方法について検討した。同氏らは、状況的な切迫性尿失禁のある40歳以上の女性61人を研究に登録し、それぞれの参加者にとって尿意を引き起こす要因となる写真を見ながら、1)20分間のマインドフルネスのトレーニングを受ける群(20人)、2)頭皮に貼り付けた電極から電流を流して脳を刺激する経頭蓋直流刺激(tDCS)を受ける群(21人)、3)マインドフルネスのトレーニングとtDCSの両方を受ける群(20人)の3群にランダムに割り付けた。マインドフルネスのトレーニングでは、身体のさまざまな部位に順番に注意を向けるよう指導され、膀胱の感覚も特に意識するように促された。いずれの介入も5〜6日間で4セッション行われた。最終的に解析に必要なデータが揃ったのは58人だった。 その結果、全ての群において、介入終了後に尿意を引き起こす要因に対する反応性が有意に軽減し、尿漏れ回数も1日当たり平均0.81〜0.95回有意に減少したことが示された。さらに、マインドフルネス+tDCS群では、排泄に関連する単語への注意バイアスが有意に減少し、1日当たりの切迫感の頻度も1.76回有意に減少したことが確認された。 Clarkson氏らは、こうした効果は、薬物療法や骨盤底筋訓練などの切迫性尿失禁の既存の治療法で報告されている効果と同程度であったとしている。論文の筆頭著者でピッツバーグ大学精神医学准教授のCynthia Conklin氏は、「さらなる研究は必要だが、この研究結果はマインドフルネスのような行動的アプローチが症状を改善するための代替手段、あるいは補完的な手段になり得ることを示唆しており、極めて有望なものだ」とニュースリリースの中で述べている。また、同氏は参加者の90%以上が研究を完遂した点にも言及している。 Clarkson氏らは今後、高齢者向けの自立型住宅施設でこのマインドフルネス療法の研究を行い、最終的にはスマートフォンのアプリによるツールの開発につなげたいとしている。(HealthDay News 2025年6月11日) https://www.healthday.com/health-news/women-health/latchkey-incontinence-treatments-might-include-mindfulness-meditation Copyright © 2025 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock/romankrykh
玄関のドアを見たときや水の流れる音を聞いたときなどに、突然尿意に襲われ、尿漏れしたことはないだろうか。米ピッツバーグ大学コンチネンス研究センターのBecky Clarkson氏らによる新たな研究で、このような切迫性尿失禁に対しては、マインドフルネスのトレーニングと電流を流して脳を刺激する治療が尿漏れの回数を減らすのに有効であることが明らかになった。この研究の詳細は、「Continence」6月号に掲載された。 論文の上席著者であるClarkson氏は「尿失禁は深刻な問題だ。トラウマにもなり得る。尿漏れへの不安から、外出して人と会ったり運動をしたりすることを避けるようになる人も多い。特に高齢者では、社会的孤立や抑うつ、機能低下につながることもある」と同大学のニュースリリースの中で述べている。 切迫性尿失禁は、特定の状況的な要因がきっかけで突然尿意が起こる状態を指す。玄関のドアを見たときなどに強い尿意を感じて尿漏れを生じる症状は、「ドアノブ尿失禁」と呼ばれることもある。Clarkson氏らは、「ドアノブ尿失禁は、パブロフの条件付けの一種だ」と説明している。つまり、自宅に帰ってきたらすぐにトイレに行く習慣を長年続けることで、玄関のドアを開けた瞬間に強い尿意を感じるように条件付けられてしまうというのだ。 Clarkson氏らは先行研究で、切迫性尿失禁と背外側前頭前野と呼ばれる脳領域が関連していることを示している。この脳領域は、切迫性尿失禁のある人が尿意を引き起こす特定の要因に直面したときに活性化していたという。Clarkson氏は、「前頭前野は膀胱の実行機能の中枢であり、『今がトイレに行くべき時だ。その場所を探せ』と指示を出す役割を果たしている」と説明している。 今回の研究でClarkson氏らは、このような脳の反応を抑える方法について検討した。同氏らは、状況的な切迫性尿失禁のある40歳以上の女性61人を研究に登録し、それぞれの参加者にとって尿意を引き起こす要因となる写真を見ながら、1)20分間のマインドフルネスのトレーニングを受ける群(20人)、2)頭皮に貼り付けた電極から電流を流して脳を刺激する経頭蓋直流刺激(tDCS)を受ける群(21人)、3)マインドフルネスのトレーニングとtDCSの両方を受ける群(20人)の3群にランダムに割り付けた。マインドフルネスのトレーニングでは、身体のさまざまな部位に順番に注意を向けるよう指導され、膀胱の感覚も特に意識するように促された。いずれの介入も5〜6日間で4セッション行われた。最終的に解析に必要なデータが揃ったのは58人だった。 その結果、全ての群において、介入終了後に尿意を引き起こす要因に対する反応性が有意に軽減し、尿漏れ回数も1日当たり平均0.81〜0.95回有意に減少したことが示された。さらに、マインドフルネス+tDCS群では、排泄に関連する単語への注意バイアスが有意に減少し、1日当たりの切迫感の頻度も1.76回有意に減少したことが確認された。 Clarkson氏らは、こうした効果は、薬物療法や骨盤底筋訓練などの切迫性尿失禁の既存の治療法で報告されている効果と同程度であったとしている。論文の筆頭著者でピッツバーグ大学精神医学准教授のCynthia Conklin氏は、「さらなる研究は必要だが、この研究結果はマインドフルネスのような行動的アプローチが症状を改善するための代替手段、あるいは補完的な手段になり得ることを示唆しており、極めて有望なものだ」とニュースリリースの中で述べている。また、同氏は参加者の90%以上が研究を完遂した点にも言及している。 Clarkson氏らは今後、高齢者向けの自立型住宅施設でこのマインドフルネス療法の研究を行い、最終的にはスマートフォンのアプリによるツールの開発につなげたいとしている。(HealthDay News 2025年6月11日) https://www.healthday.com/health-news/women-health/latchkey-incontinence-treatments-might-include-mindfulness-meditation Copyright © 2025 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock/romankrykh