脳卒中後の抑うつや不安に苦しむ患者に対し、会話を中心にした心理療法であるトーキングセラピーが有効であることが、新たな研究で示された。英国で国民保健サービス(NHS)が無料で提供している不安と抑うつのためのトーキングセラピー(Talking Therapies for anxiety and depression;TTad)を受けた脳卒中経験者の71.3%が抑うつや不安の症状の大幅な改善を経験し、約半数は脳卒中後の気分障害から完全に回復したことが示された。英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)精神保健リサーチフェローのJae Won Suh氏らによるこの研究の詳細は、「Nature Mental Health」に6月5日掲載された。 Suh氏は、「脳卒中経験者がトーキングセラピーを始めるタイミングが早ければ早いほど、より良いアウトカムにつながることも分かった。脳卒中後の患者の診療に当たっている総合診療医(GP)などの臨床医は、患者の抑うつや不安の症状のスクリーニングを行い、できるだけ早く心理療法を紹介することが重要だ」とUCLのニュースリリースで述べている。 Suh氏らによると、脳卒中経験者の3人中1人が抑うつ症状を抱え、4人中1人以上が不安を抱えていると推定されている。また、脳卒中経験者は、一般人口と比べて脳卒中後1年以内にうつ病を発症するリスクが約2倍、不安症を発症するリスクが約4倍高いと報告されている。 Suh氏らは今回の研究で、2012~2019年にNHSのTTadを利用した193万9,007人のデータを調査した。その中には7,597人(0.4%)の脳卒中経験者が含まれていた。TTadは、気分障害に悩む住民に向けて、1対1、またはグループで行われる認知行動療法(CBT)やカウンセリングを、対面またはオンラインで無料提供するNHSのサービスである。参加者の抑うつや不安は、PHQ-9(Patient Health Questionnaire 9)やGAD-7(Generalized Anxiety Disorder-7)などの妥当性が確認されている質問票で評価された。 その結果、トーキングセラピーを受けた脳卒中経験者の71.3%(5,403人)で、抑うつや不安の症状の大幅な改善が認められた。また、49.2%(3,723人)は、症状が明確に改善し、抑うつおよび不安のスコアが診断閾値を下回って治療を完了する「信頼できる回復」を達成したことが確認された。さらに、機能障害(仕事や家庭の管理、社会的つながりの維持、余暇活動が困難になる状態)についても中等度の改善が確認された。このほか、脳卒中の発症後1年以上が経過してからトーキングセラピーを始めた場合、発症から6カ月以内に始めた場合と比べて回復の可能性が20%低下することも明らかになった。 論文の共著者の一人であるUCL老年学および臨床心理学教授のJoshua Stott氏は、「脳卒中未経験者と比較して、脳卒中経験者ではアウトカムが不良な傾向にある。このことは、精神保健の臨床医が認知障害や感覚障害、複雑な身体上の健康問題を抱えている人など、慢性疾患を有する患者に対応するためのさらなる訓練を受けることの重要性を示している」とニュースリリースの中で指摘。その上で、「このような訓練への投資は、何千人もの患者の精神的および身体的な健康アウトカムの向上をもたらすだろう」と付け加えている。(HealthDay News 2025年6月18日) https://www.healthday.com/health-news/stroke/talk-therapy-eases-depression-anxiety-in-stroke-survivors Copyright © 2025 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock
脳卒中後の抑うつや不安に苦しむ患者に対し、会話を中心にした心理療法であるトーキングセラピーが有効であることが、新たな研究で示された。英国で国民保健サービス(NHS)が無料で提供している不安と抑うつのためのトーキングセラピー(Talking Therapies for anxiety and depression;TTad)を受けた脳卒中経験者の71.3%が抑うつや不安の症状の大幅な改善を経験し、約半数は脳卒中後の気分障害から完全に回復したことが示された。英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)精神保健リサーチフェローのJae Won Suh氏らによるこの研究の詳細は、「Nature Mental Health」に6月5日掲載された。 Suh氏は、「脳卒中経験者がトーキングセラピーを始めるタイミングが早ければ早いほど、より良いアウトカムにつながることも分かった。脳卒中後の患者の診療に当たっている総合診療医(GP)などの臨床医は、患者の抑うつや不安の症状のスクリーニングを行い、できるだけ早く心理療法を紹介することが重要だ」とUCLのニュースリリースで述べている。 Suh氏らによると、脳卒中経験者の3人中1人が抑うつ症状を抱え、4人中1人以上が不安を抱えていると推定されている。また、脳卒中経験者は、一般人口と比べて脳卒中後1年以内にうつ病を発症するリスクが約2倍、不安症を発症するリスクが約4倍高いと報告されている。 Suh氏らは今回の研究で、2012~2019年にNHSのTTadを利用した193万9,007人のデータを調査した。その中には7,597人(0.4%)の脳卒中経験者が含まれていた。TTadは、気分障害に悩む住民に向けて、1対1、またはグループで行われる認知行動療法(CBT)やカウンセリングを、対面またはオンラインで無料提供するNHSのサービスである。参加者の抑うつや不安は、PHQ-9(Patient Health Questionnaire 9)やGAD-7(Generalized Anxiety Disorder-7)などの妥当性が確認されている質問票で評価された。 その結果、トーキングセラピーを受けた脳卒中経験者の71.3%(5,403人)で、抑うつや不安の症状の大幅な改善が認められた。また、49.2%(3,723人)は、症状が明確に改善し、抑うつおよび不安のスコアが診断閾値を下回って治療を完了する「信頼できる回復」を達成したことが確認された。さらに、機能障害(仕事や家庭の管理、社会的つながりの維持、余暇活動が困難になる状態)についても中等度の改善が確認された。このほか、脳卒中の発症後1年以上が経過してからトーキングセラピーを始めた場合、発症から6カ月以内に始めた場合と比べて回復の可能性が20%低下することも明らかになった。 論文の共著者の一人であるUCL老年学および臨床心理学教授のJoshua Stott氏は、「脳卒中未経験者と比較して、脳卒中経験者ではアウトカムが不良な傾向にある。このことは、精神保健の臨床医が認知障害や感覚障害、複雑な身体上の健康問題を抱えている人など、慢性疾患を有する患者に対応するためのさらなる訓練を受けることの重要性を示している」とニュースリリースの中で指摘。その上で、「このような訓練への投資は、何千人もの患者の精神的および身体的な健康アウトカムの向上をもたらすだろう」と付け加えている。(HealthDay News 2025年6月18日) https://www.healthday.com/health-news/stroke/talk-therapy-eases-depression-anxiety-in-stroke-survivors Copyright © 2025 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock