脳卒中患者のリハビリテーション(以下、リハビリ)におけるVR(仮想現実、バーチャルリアリティ)の活用は、代替療法に比べて腕の動きの改善にわずかに役立つ可能性があることが、新たな研究により明らかになった。英フリンダース大学看護・健康科学部のKate Laver氏らによるこの研究の詳細は、「Cochrane Database of Systematic reviews」に6月20日掲載された。 研究グループは、「VRは、患者が受けるリハビリの量を増やすことでその効果を高める手段として有望である可能性が示された」と話す。またLaver氏は、「治療に費やす時間を増やすと、脳卒中後の転帰が改善することは知られている。VRを活用すれば、臨床医が監督をしなくても治療の量が増えるため、比較的安価で魅力的な方法となり得る」と述べている。 脳卒中に対するVRを活用したリハビリ(以下、VR活用リハビリ)の効果についてのレビューは、2011年と2015〜2017年にも実施されている。今回のレビューでは、新たに発表された119件の研究を追加した、計190件のランダム化比較試験(RCT)のデータ(対象者の総計7,188人)を対象にしたもの。RCTの多くは小規模で、対象者の数が50人以上のRCTはわずか36件(29%)だった。また、RCTで使用されていたVR技術は、既製のゲームシステムなど、基本的な、あるいは低コストのものだった。 その結果、VR活用リハビリは、代替療法と比べて腕の機能と活動性の回復に対する効果がわずかに高いことが示された(標準化平均差0.20、95%信頼区間0.12〜0.28、67件の研究)。歩行速度に対しては、VR活用リハビリはほとんどまたは全く影響しないことが示唆されたが、エビデンスの確実性は極めて低かった(10件の研究)。さらに、代替療法と比較して、VR活用リハビリはバランス感覚の向上にわずかに有益な可能性があり(同0.26、0.12~0.40、24件の研究)、活動制限を軽減する可能性があるが(同0.21、0.11~0.32、33件の研究)、生活の質(QOL)への影響はほとんど、またはまったくない可能性が示唆された(同0.11、−0.02~0.24、16件の研究)。VR活用リハビリの安全性については、ごく少数の患者に痛みや頭痛、めまいなどが生じたが、概ね安全であることが示唆された。 研究グループは、「現在のVR活用リハビリプログラムのほとんどは、着替えや調理といった機能的能力の回復を助けることではなく動作訓練に重点を置いているため、脳卒中経験者の機能回復を支援するという本来の可能性を生かしきれていない」との見方を示す。Laver氏は、「VR技術は、スーパーマーケットでの買い物や道路の横断など、現実の環境をシミュレートできる可能性を秘めている。つまり、現実世界では安全に実践できないタスクを試すことができるということだ」と話す。その上で同氏は、「研究者らは、さらなる研究により、より洗練された機能重視の治療法を開発する余地が十分にある」と付け加えている。(HealthDay News 2025年6月24日) https://www.healthday.com/health-news/cardiovascular-diseases/vr-might-aid-stroke-recovery Copyright © 2025 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock/wavebreak3
脳卒中患者のリハビリテーション(以下、リハビリ)におけるVR(仮想現実、バーチャルリアリティ)の活用は、代替療法に比べて腕の動きの改善にわずかに役立つ可能性があることが、新たな研究により明らかになった。英フリンダース大学看護・健康科学部のKate Laver氏らによるこの研究の詳細は、「Cochrane Database of Systematic reviews」に6月20日掲載された。 研究グループは、「VRは、患者が受けるリハビリの量を増やすことでその効果を高める手段として有望である可能性が示された」と話す。またLaver氏は、「治療に費やす時間を増やすと、脳卒中後の転帰が改善することは知られている。VRを活用すれば、臨床医が監督をしなくても治療の量が増えるため、比較的安価で魅力的な方法となり得る」と述べている。 脳卒中に対するVRを活用したリハビリ(以下、VR活用リハビリ)の効果についてのレビューは、2011年と2015〜2017年にも実施されている。今回のレビューでは、新たに発表された119件の研究を追加した、計190件のランダム化比較試験(RCT)のデータ(対象者の総計7,188人)を対象にしたもの。RCTの多くは小規模で、対象者の数が50人以上のRCTはわずか36件(29%)だった。また、RCTで使用されていたVR技術は、既製のゲームシステムなど、基本的な、あるいは低コストのものだった。 その結果、VR活用リハビリは、代替療法と比べて腕の機能と活動性の回復に対する効果がわずかに高いことが示された(標準化平均差0.20、95%信頼区間0.12〜0.28、67件の研究)。歩行速度に対しては、VR活用リハビリはほとんどまたは全く影響しないことが示唆されたが、エビデンスの確実性は極めて低かった(10件の研究)。さらに、代替療法と比較して、VR活用リハビリはバランス感覚の向上にわずかに有益な可能性があり(同0.26、0.12~0.40、24件の研究)、活動制限を軽減する可能性があるが(同0.21、0.11~0.32、33件の研究)、生活の質(QOL)への影響はほとんど、またはまったくない可能性が示唆された(同0.11、−0.02~0.24、16件の研究)。VR活用リハビリの安全性については、ごく少数の患者に痛みや頭痛、めまいなどが生じたが、概ね安全であることが示唆された。 研究グループは、「現在のVR活用リハビリプログラムのほとんどは、着替えや調理といった機能的能力の回復を助けることではなく動作訓練に重点を置いているため、脳卒中経験者の機能回復を支援するという本来の可能性を生かしきれていない」との見方を示す。Laver氏は、「VR技術は、スーパーマーケットでの買い物や道路の横断など、現実の環境をシミュレートできる可能性を秘めている。つまり、現実世界では安全に実践できないタスクを試すことができるということだ」と話す。その上で同氏は、「研究者らは、さらなる研究により、より洗練された機能重視の治療法を開発する余地が十分にある」と付け加えている。(HealthDay News 2025年6月24日) https://www.healthday.com/health-news/cardiovascular-diseases/vr-might-aid-stroke-recovery Copyright © 2025 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock/wavebreak3