食道と胃の境目から食道下部にかけての粘膜が胃粘膜に置き換わっている状態を指すバレット食道の患者は、異形成を認めると食道がんリスクが高まるため、定期的に内視鏡検査を受ける必要がある。しかし、こうした定期検査の有効性にはばらつきのあることが指摘されている。 こうした中、胃の中で溶けて小さなスポンジが出てくる糸付きのカプセル剤(以下、カプセルスポンジ)を飲み込み、糸でスポンジをゆっくり引き上げながら食道の細胞を採取し、バイオマーカーや細胞の形態異常を調べる新たな検査方法に関する研究結果が報告された。研究チームは、がん化リスクの低いバレット食道患者については、このカプセルスポンジによる検査を内視鏡検査の代替手段として用いることができるとの見方を示している。英ケンブリッジ大学早期がん研究所所長のRebecca Fitzgerald氏らによるこの研究の詳細は、「The Lancet」に6月23日掲載された。 Fitzgerald氏らによると、食道がんは治療が難しく、診断後5年以上生存する患者は5人に1人に満たないという。バレット食道の患者に対しては、定期的に検査を実施して食道組織の異形成の有無を確認する必要がある。しかし同氏は、「バレット食道が食道がんに進行する可能性は低い上に、内視鏡検査はあまり快適な検査ではない。さらに、内視鏡検査の精度は検査を行う医師のスキルや使用する機器に左右される可能性もあり、がんを早期発見するための確実な方法とは言えない」と指摘。「内視鏡検査よりも侵襲性が低く、実施が容易で、より信頼のおける代替手段が求められている」と話している。 このような背景の中で開発されたのが、カプセルスポンジである。Fitzgerald氏らは今回、英国の13カ所の病院でバレット食道の経過観察を受けている910人の患者を対象に、カプセルスポンジを用いた検査により、高リスクに分類された患者には内視鏡検査を優先的に実施し、低リスクに分類された患者には内視鏡検査を省略できるかを検討した。対象患者は臨床マーカー(年齢・性別・食道の病変長)とカプセルスポンジによるバイオマーカー検査の結果を基に、低リスク群(臨床的なリスクが低くバイオマーカーが陰性)、中リスク群(臨床的なリスクは高いがバイオマーカーは陰性)、高リスク群(臨床的なリスクに関わりなく、バイオマーカーが陽性〔がん抑制遺伝子p53の異常または異型腺細胞のいずれかまたは両方が認められる〕)の3群に分類された。全ての患者は内視鏡検査も受け、その検査結果がカプセルスポンジ検査の結果と比較された。 カプセルスポンジ検査の結果、138人(15%)が高リスク群、283人(31%)が中リスク群、489人(54%)が低リスク群に分類された。高リスク群での陽性的中率(実際に異形成またはがんが見つかった割合)は37.7%であり、特にp53異常と異型腺細胞の両方が認められた患者では、低リスク群と比べて高度異形成またはがんのリスクが135.8倍に達した。一方、低リスク群における高度異形成またはがんの有病率はわずか0.4%であり、陰性的中率(異形成やがんがないと正しく予測した割合)は97.8%に上った。 論文の筆頭著者である英アデンブルック病院のKeith Tan氏は、「カプセルスポンジによる検査は内視鏡検査よりもはるかに迅速、簡単、安価だ」と話す。同氏は、「カプセルスポンジ検査は、看護師が少し訓練を受けるだけで簡単かつ迅速に実施でき、貴重な内視鏡リソースを費やす必要もない。この検査法は患者にとって内視鏡検査よりも好ましい上に、費用対効果が高い可能性がある」と述べている。 研究チームは、カプセルスポンジで収集した食道の組織を評価する実験室作業を改善することでこの検査の精度をさらに向上させるとともに、評価にAI支援を取り入れる可能性についても検討中であるとしている。(HealthDay News 2025年6月30日) https://www.healthday.com/health-news/cancer/pill-on-a-string-could-revolutionize-testing-for-throat-cancer Copyright © 2025 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock