基本的な抗菌薬が効かない細菌が増える中、薬剤耐性の問題は世界的に喫緊の公衆衛生上の脅威となっている。こうした中、家畜の糞尿が、人間の健康を脅かす可能性のある薬剤耐性遺伝子の主要なリザーバー(貯蔵庫)となっていることが、新たな研究で明らかになった。米ミシガン州立大学微生物学教授のJames Tiedje氏らによるこの研究結果は、「Science Advances」に6月27日掲載された。 農業での抗菌薬の過剰な使用が薬剤耐性菌の拡大を招く一因となっている可能性に対する懸念が広がりつつある。研究の背景情報によると、毎年9万3,000トン以上の抗菌薬が家畜に使用されている。また、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)などの耐性菌への感染例は毎年280万件以上発生しており、3万5,000人以上が死亡している。しかし、薬剤耐性菌の農場から人間への感染経路については不明点が多い。 Tiedje氏は、「いくつかの薬剤耐性遺伝子は、土壌や水、糞尿の中のDNAに広く存在することが知られているが、それらは本当に危険なDNAなのだろうか。われわれはさらに一歩踏み込んで、これらの遺伝子が可動性を持ち、健康を悪化させる有害な細菌に取り込まれるのかどうかについて調べた」と説明している。 Tiedje氏らはこの研究で、14年間にわたって26カ国で採取されたブタやニワトリ、ウシの糞尿サンプル4,017点を対象にメタゲノム解析を実施し、家畜由来の薬剤耐性遺伝子(ARG)とメタゲノム再構築ゲノム(MAG)の包括的なカタログを作成した。 その結果、家畜の糞便中には、既知の2,291のARGサブタイプに加え、潜在的なサブタイプとして新たに3,166が同定され、家畜の糞便がARGの主要なリザーバーとなっていることが示唆された。また、家畜由来のARGに臨床的に重要なARGも多く含まれており、抗菌薬の使用状況がそれに影響を及ぼしている可能性も示された。 これらの結果を基に研究グループは、家畜におけるARGの世界的な分布パターンと臨床的に重要なARGの分布状況を可視化した世界地図を作成した。さらに、ARGの可動性や治療困難度、病原性細菌における現時点での保持状況に基づき、人間の健康に対するリスクの大きさに応じて遺伝子を順位付けする新たなランク付けシステムも開発した。 論文の上席著者である西北農林科技大学(中国)のXun “Shawn” Qian氏は、「本研究結果は、主要な畜産国における標的を絞った薬剤耐性のモニタリングとリスク管理の必要性を強調するものだ。例えば、世界最大の牛肉生産国である米国では、他国と比べてウシの糞尿中のARGの量と多様性が高いことが分かった。同様に、世界最大の豚肉生産国である中国では、ブタの糞尿中の細菌の量や多様性、そして全体的な耐性リスクが他の全ての国を上回っていた」と説明している。 研究グループはまた、この結果によって家畜への抗菌薬使用の制限の有効性を裏付けるエビデンスがさらに増えたと述べている。抗菌薬は、病気の治療よりも成長を速める目的で家畜に使用されることが多いが、それが薬剤耐性が生じる可能性を高める。 一方で、勇気付けられる結果も得られた。農業での抗菌薬使用削減に向けた早期の取り組みが効果を上げている兆しが確認されたのだ。これは抗菌薬の使用を制限する政策が有効であることを示しているが、Tiedje氏はさらなる対策が必要であると主張している。同氏は、「問題は極めて深刻であり、国連は世界中の政府に対して薬剤耐性の問題に対応するための国家行動計画を策定するよう求めている。今回の研究から得られたデータは、各国が自国にとって何が最も重要か、またどこに注力すれば最大の効果が得られるかを判断する一助となるはずだ」と述べている。(HealthDay News 2025年7月2日) https://www.healthday.com/health-news/infectious-disease/livestock-manure-could-be-source-of-antibiotic-resistance-researchers-warn Copyright © 2025 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock