非小細胞肺がん(NSCLC)患者に対しては、がんに関連した症状の軽減目的でステロイド薬が処方されることが多い。しかし新たな研究で、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)による治療開始時にステロイド薬を使用していると、ICIの治療効果が低下する可能性のあることが示された。米南カリフォルニア大学(USC)ケック・メディシンの腫瘍内科医であり免疫学者でもある伊藤史人氏らによるこの研究の詳細は、「Cancer Research Communications」に7月7日掲載された。伊藤氏は、「がんの病期や進行度といった複数の要因を考慮しても、ステロイド薬の使用は特定の免疫療法で効果が得られないことの最も強い予測因子であった」と話している。 伊藤氏らはこの研究で、ICI単独、またはICIと他の治療法の併用のいずれかによる治療を受けたNSCLC患者277人(USCの患者189人、ロズウェルパーク総合がんセンターの患者88人)の医療記録を分析した。これらの患者のうちの21人(8%)は、ICI開始時にステロイド薬を使用していた。ステロイド薬はがん患者の倦怠感や嘔吐、脳の腫れ、肺の炎症といった症状を軽減するために広く使用されており、免疫系を抑制することで炎症を軽減する作用がある。 分析の結果、ICIによる治療開始時にステロイド薬を使用していることは奏効率の低下と関連することが明らかになった。また、ICIによる治療開始時にステロイド薬を使用していた患者では、使用していなかった患者に比べて無増悪生存期間(PFS)と全生存期間(OS)が有意に短いことも示された。さらに、ICIによる治療開始時のステロイド薬の使用はPFSとOSの独立した予後不良因子であり、ステロイド使用者では非使用者と比べて、病態の進行リスクが2.7〜4.3倍、死亡リスクが2.4〜3.2倍高かった。 ステロイド薬を使用している患者では、ベースライン時にがん進行の指標となる血液中を循環する免疫のバイオマーカー(CX3CR1+CD8+T細胞)が有意に少ないことも示された。伊藤氏は、「この血中バイオマーカーがないと、がんの治療方針を判断する手がかりを得ることができず、腫瘍内科医は最適な治療を行えなくなる。その結果、患者が最善の治療を受けられなくなる可能性がある」と言う。このほか、実験用マウスを用いた検討からは、ICIによる治療前または治療中にステロイド薬を投与すると、T細胞が成熟する過程が妨げられることも示された。 伊藤氏は、「この研究結果から、ステロイド薬は体にもともと存在している免疫細胞であるT細胞の成熟を妨げることが明らかになった。その結果、T細胞は通常のようにがん細胞を攻撃することができず、患者の予後が悪化するのだ」と言う。同氏はまた、「ステロイド薬が免疫療法に干渉する可能性があることは他の研究でも示されているが、本研究は、その推定される因果関係を示した最初の研究の一つだ」と話している。 伊藤氏らは、本研究で認められた関連性をより深く理解するためには、さらなる研究が必要であるとの見解を示している。伊藤氏は、「患者によっては、がんの症状を管理する上でステロイド薬が不可欠だ。ステロイド薬が今後も肺がん治療において重要な役割を果たすことは間違いないが、その限界についても理解しておくことが重要である。自身のニーズに最も適した治療計画を立てるために、どの患者も主治医とよく話し合うべきだ」と助言している。(HealthDay News 2025年7月7日) https://www.healthday.com/health-news/cancer/clash-of-drugs-impedes-lung-cancer-treatment-lowers-survival Copyright © 2025 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock