アスピリンやイブプロフェンなどの非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、ACE(アンジオテンシン変換酵素)阻害薬などの降圧薬、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)の抗うつ薬など広く使用されている薬剤は、顕微鏡的大腸炎(microscopic colitis;MC)のリスク因子である可能性が指摘されている。しかし、280万人以上を対象にした大規模研究において、これらの薬剤がMCの原因であることを示唆するエビデンスは認められなかったことが報告された。米マサチューセッツ総合病院クローン病・大腸炎センター臨床研究ディレクターのHamed Khalili氏らによるこの研究結果は、「Annals of Internal Medicine」に7月1日掲載された。 MCは、大腸の組織標本の病理検査により初めて診断される消化器疾患であり、原因不明の慢性腸管炎症により頻回な水様性の下痢を繰り返すことを主な症状とする。Khalili氏らによると、高齢者の慢性下痢症症例の30%以上がMCに起因し、世界中で症例が増加しているという。上述のように、過去の研究では、広く使われているさまざまな薬剤がMCを引き起こす可能性が指摘されているものの、明確なエビデンスはいまだ得られていない。 今回の研究でKhalili氏らは、2006年から2017年の間にスウェーデンに居住し、基準を満たした65歳以上の人を対象に、過去にMCとの関連が示唆された薬剤のMCリスクに対する潜在的な影響を、6つの標的試験を模倣する手法で検討した。具体的な比較対象は、ACE阻害薬とカルシウム拮抗薬(CCB)、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)とCCB、NSAIDsとNSAIDs非使用、プロトンポンプ阻害薬(PPI)とPPI非使用、スタチンとスタチン非使用、SSRIとミルタザピンであり、各比較における対象者数は、19万1,482人から263万4,777人の間であった。 全ての治療戦略において、MCの12カ月間および24カ月間の累積発症率は0.5%未満であった。SSRIとミルタザピンの比較を除く5種類の治療戦略においては、12カ月間のリスク差はほぼゼロであった。SSRIとミルタザピンの比較では、SSRIでの治療によりMCリスクがわずかに上昇する可能性が示されたが(リスク差0.04%、95%信頼区間0.03〜0.05)、研究グループは、「これはSSRI使用者では内視鏡検査受診率が高いため、MCが発見される可能性が高いためかもしれない」としている。24カ月間のリスク差についても同様の結果であった。 こうした結果を受けてKhalili氏は、「われわれの研究は、これまで考えられてきたことに反して、薬剤がMCの主なリスク因子である可能性は低いことを明らかにした」と結論付けている。同氏はまた、「臨床医は、これらの薬剤の意図された治療効果と、MCを引き起こす可能性は極めて低いことを慎重に比較検討する必要がある」と述べている。 論文の上席著者であるカロリンスカ研究所(スウェーデン)医療疫学および生物統計学分野のJonas Ludvigsson氏は、「この結果は、過去の研究で指摘されたMCと薬剤との関連がサーベイランスバイアスにより説明できる可能性の高いこと、また、SSRIとの継続的な関連についてもこのバイアスにより説明できる可能性があることを示唆している」と話している。(HealthDay News 2025年7月8日) https://www.healthday.com/health-news/digestive-system/common-meds-arent-linked-to-inflammatory-bowel-disease-study-says Copyright © 2025 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock