米ミネソタ州出身のMark Welterさんは腎臓移植を必要としていたが、移植後は死ぬまで免疫抑制薬を服用し続けなければならないことに納得していなかった。免疫抑制薬は移植された臓器の拒絶反応を防ぐために不可欠ではあるものの、頭痛や振戦などの重篤な副作用や、感染症、がんリスクの増加など多くの欠点を伴うからだ。しかし、米メイヨー・クリニックのMark Stegall氏らが実施した第3相臨床試験において、免疫寛容を誘導するために、臓器移植に加えて幹細胞移植を用いる方法により、免疫抑制薬を生涯にわたって使用する必要がなくなる可能性のあることが示された。この試験の詳細は、「American Journal of Transplantation」7月号に掲載された。 Stegall氏らがこの臨床試験で検討したアプローチは、臓器移植とともに、ドナーから採取された造血幹細胞などから成る細胞製剤(MDR-101)を投与するというもの。これにより患者の免疫系がリセットされ、ドナーの臓器を受け入れるように仕向けることができる可能性があるという。試験では、2つのヒト白血球型抗原(HLA)ハプロタイプが一致する生体ドナー(兄弟姉妹)からの腎臓移植を受ける患者30人を2対1の割合で、MDR-101を投与する治療群(20人)と標準治療を受ける対照群(10人)にランダムに割り付けた。治療群は、骨髄非破壊的な前処置として抗ヒト胸腺細胞ウサギ免疫グロブリンと低用量全リンパ節照射(10回)を受け、移植後11日目にMDR-101が点滴投与された。ステロイド薬の投与は移植後10日目までに、免疫抑制薬のミコフェノール酸は移植後39日目までに中止された。 その結果、治療群では、移植片対宿主病(GVHD)は一例も認められず、19人(95%)が移植後約1年で全ての免疫抑制薬の中止に至った。さらに15人(75%)が主要評価項目である「免疫抑制薬なしを2年以上維持」を達成した。一方、4人が免疫グロブリンA腎症の再発や拒絶反応、境界型生検変化などの理由で免疫抑制薬の再開が必要になった。 遺伝性疾患である多発性嚢胞腎を患っていたWelterさんも、この移植アプローチを検討する臨床試験に4年前に参加し、妹から腎臓と幹細胞の両方の移植を受けた。その後、3年以上も免疫抑制薬を一切服用していないという。Welterさんは、「最高の気分だ。今の自分は移植を受ける前の自分と変わらないと感じられるのが、何より素晴らしいことだと思う」とニュースリリースの中で述べている。 Stegall氏は、「私は30年以上にわたり移植研究に携わり、数々の素晴らしい成果を上げてきた。この研究はまさにその頂点に立つものだ」と話す。同氏は、「移植患者を安全に免疫抑制状態から解放するという目標は、私がこの仕事に携わるよりもはるか前から胸に抱いていた。だから、われわれは今回の結果に興奮している」と語っている。 ただし研究グループは、この移植アプローチを広く利用できるようになるまでにはさらなる研究が必要だと述べている。例えば、ドナーが適合性のあまり高くない兄弟姉妹であっても、幹細胞移植により拒絶反応を予防できるかどうかを確認する必要がある。(HealthDay News 2025年7月15日) https://www.healthday.com/health-news/kidney-health/new-stem-cell-approach-helps-transplant-patients-drop-immune-suppressing-drugs Copyright © 2025 HealthDay. All rights reserved.写真:Cindy Kendallさん(妹)とMark Welterさん(兄) Photo Credit: Mayo Clinic