自分はグルテン不耐症だと信じている過敏性腸症候群(IBS)患者の一部で見られる症状は、実際にはグルテンのせいではなく思い込みにより生じている可能性のあることが、小規模な臨床試験で示された。IBS患者を対象としたこの臨床試験では、グルテンや小麦が含まれていないシリアルバーでも、摂取後に消化器症状の悪化を訴える人がいたという。マクマスター大学(カナダ)医学部教授のPremysl Bercik氏らによるこの研究結果は、「The Lancet Gastroenterology and Hepatology」に7月21日掲載された。 グルテンは小麦、大麦、ライ麦などの穀物に含まれるタンパク質の一種である。米ハーバード大学T.H.チャン公衆衛生大学院によると、グルテンに対してアレルギーがある人や、グルテンによって免疫反応が引き起こされ腸が損傷される可能性がある人では、グルテンの摂取が消化器系の問題をもたらすことがあるという。 今回報告されたランダム化クロスオーバー試験は、グルテンフリーの食事で症状が改善したとの報告があった28人のIBS患者を対象に実施された。各参加者には、3種類のシリアルバーを3回、間隔を空けて食べてもらった。3本のシリアルバーのうち1本はグルテンを、1本は小麦を含み、もう1本はどちらも含んでいなかった(シャム)。 その結果、IBS症状のスコア(IBS-SSS)が50点以上悪化した参加者の割合は、小麦含有シリアルバー摂取後で11人(39%、シャムのシリアルバーとのリスク差は0.11、95%信頼区間−0.16〜0.35)、グルテン含有シリアルバー摂取後で10人(36%、シャムとのリスク差は0.07、同−0.19〜0.32)、シャムのシリアルバー摂取後は8人(29%)であった。これらの結果は、小麦およびグルテン摂取群とシャム群との間で、IBS症状の悪化率に統計学的な有意差はないことを示している。 Bercik氏は、これはネガティブな予測のみによって実際に身体症状が引き起こされる「ノセボ効果」と呼ばれる現象に起因している可能性があるとの見方を示している。同氏は、「グルテンに反応していると思っている患者の全てが実際にグルテンに反応しているわけではない。本当に食物タンパク質に感受性を持っている人もいるが、多くの場合、グルテンが症状の原因だとする思い込み自体が症状を引き起こし、グルテンが含まれている食品を避けるという選択につながっている」とニュースリリースの中で述べている。 Bercik氏は、特にソーシャルメディアやオンラインコミュニティーが「グルテンは有害である」という考えを助長している可能性があると指摘している。同氏は、「IBS患者の中には、どうして良いのか分からないままでいるのではなく、グルテンを避けることが自分の状況をコントロールする手段の一つになると考える人もいる可能性がある。グルテンフリーの食事を続けることは不必要な食事制限にはなるが、症状を自分でコントロールしようとする患者にとってはすぐに取り組むことができる具体的な方法にもなり得る」と述べている。実際、どのシリアルバーが症状を引き起こしたのかを後で知らされても、多くの参加者は自分の考えや食事内容を変えなかったという。 こうした人がグルテンに対する不安を克服するためには、セラピーやコーチングが必要になるかもしれないとBercik氏は言う。「このような患者に対する臨床的な管理でわれわれが改善すべき点は、単に患者に『グルテンが原因ではない』と伝えて終わるのではなく、さらに寄り添って対応することだ。多くの患者にとって、グルテンや小麦に対する偏見をなくし、安全にこれらを再び食事に取り入れるための心理的サポートや指導が有益かもしれない」と述べている。 Bercik氏らは、今後の研究では、今回の臨床試験の結果をより大規模な集団で検証し、なぜグルテンに関する思い込みがIBSの症状を引き起こすのかを解明する必要があると話している。(HealthDay News 2025年7月22日) https://www.healthday.com/health-news/digestive-system/for-some-gluten-intolerance-is-psychological-study-says Copyright © 2025 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock