科学における不正行為が広がり、学術研究の健全性に深刻な脅威をもたらしていると、米ノースウェスタン大学工学・応用数学教授のLuís A.N. Amaral氏らのグループが警鐘を鳴らしている。Amaral氏らの報告によると、秘密裏に不正を働く人のネットワークが広がり、かつてないほど速いペースで科学分野において虚偽の成果が生み出されているという。詳細は、「Proceedings of the National Academy of Sciences(PNAS)」に8月4日掲載された。 科学における不正行為に関するニュースは通常、論文の撤回、データの改ざんまたは盗用など、成功のために近道をしようとする個人による単発の事例について報じたものが多いとAmaral氏らは言う。しかし、同氏らが今回行った調査によって、世間の目に触れないところで虚偽の科学を量産している闇のネットワークの存在が明らかになった。 Amaral氏らは撤回された論文を分析し、質や倫理基準を満たさないとして主要なオンライン科学データベースから除外された学術誌に掲載された研究を調べた。その結果、質の低い原稿を量産し、新しい論文をすぐに発表したい学者に販売する「ペーパーミル(論文工場)」の組織的なネットワークの存在が明らかになった。これらのレディメイドの論文には、捏造されたデータや、加工または盗用された画像、盗作された内容が含まれている。また、意味不明な内容や物理的にあり得ない内容が含まれていることもある。 Amaral氏は、「論文工場に捕らわれる科学者は増え続けている。彼らは論文だけでなく、引用数まで買うことができる。こうした行為によって、ほとんど自分では研究していないにもかかわらず、あたかも評価の高い科学者であるかのように自分を見せかけることができるのだ」と言う。また、論文の筆頭著者であるノースウェスタン大学のReese Richardson氏は、「論文工場は、正当な評価を得た科学者であるかのように見せるための手段となり得るものなら、基本的には何でも売る。彼らはしばしば著者枠を数百ドルから数千ドルで販売している。筆頭著者のポジションにはより高価、第四著者など後ろのポジションにはより安価な金額が設定されていることもある。また、自分が書いた論文を、形だけの査読プロセスを通じて受理させるためにお金を払う人もいる」と話している。 さらに本研究では、不正行為を働くネットワークには論文を発表するための複数の戦略があることも明らかになった。具体的には、1)複数の研究グループが共謀して複数の学術誌に論文を発表し、その活動が発覚した場合にのみ論文を撤回する、2)ブローカーが虚偽の論文の大量出版を調整する仲介役として機能する、3)虚偽の報告であることが見抜かれたり阻止されたりする可能性が低い、特定の限られた研究分野に照準を絞る、といったものである。 Amaral氏は、「ブローカーは、舞台裏にいるあらゆる人々をつないでいる。論文の執筆者、著者として名前を載せるためにお金を払う人、そして、それらを掲載してくれる学術誌を見つける必要がある。さらに、論文を受理してくれる編集者も必要だ」と話す。研究グループによると、これらのグループは、評価の高い学術誌を回避する方法として廃刊になった学術誌を「乗っ取る」こともある。廃刊となった学術誌の名前やウェブサイトを引き継ぎ、その身元を密かに偽装して、あたかも正規の発行元から出ているように見せかけて不正論文を量産していくのだという。 さらに、人工知能(AI)の登場によって科学における不正行為がさらに広がる恐れがあるという。Richardson氏は、「既存の不正にも対処できていないのであれば、生成AIが科学文献に与える影響に対処できるはずがない。将来、どんな内容のものが論文として公表されるのか、何が科学的事実と見なされて将来のAIモデルの学習に使われるのか、われわれは全く分からない。そして、そのAIモデルがさらに論文を書くことになるのだ」と懸念を示している。 Amaral氏らは、編集プロセスの精査を強化し、捏造された研究の検出能を高め、不正を働くネットワークの調査を進め、科学におけるインセンティブのシステムを再構築することで、アカデミアがこの脅威に対抗する必要があると述べている。(HealthDay News 2025年8月5日) https://www.healthday.com/health-news/public-health/organized-scientific-fraud-is-growing-at-alarming-rate Copyright © 2025 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock