黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)が血液中に入り込んで全身に広がる重篤な感染症である黄色ブドウ球菌菌血症の治療では、通常、抗菌薬の長期にわたる静脈内投与が必要であり、カテーテル関連血栓症や二次感染などの合併症を伴うこともある。しかし新たな研究で、2014年に米食品医薬品局(FDA)により承認された抗菌薬のダルババンシンを7日間隔で2回静脈内投与したところ、効果が抗菌薬を毎日静脈内投与する従来の治療と同等であったことが示された。米国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)の資金提供を受けて米デューク大学医学部のNicholas Turner氏らが実施したこの研究結果は、「Journal of the American Medical Association(JAMA)」に8月13日掲載された。 NIAID微生物学・感染症部門長代理のJohn Beigel氏は、「黄色ブドウ球菌菌血症の治療で使える抗菌薬は種類が少ない上に、細菌の薬剤耐性が高まっている。こうした状況下で、重篤な感染症の有効な治療法としてダルババンシンが確立されれば、治療における重要な選択肢となる」と述べている。 Turner氏らは、米国とカナダの23カ所の医療センターに入院し、複雑性黄色ブドウ球菌菌血症の治療を受けた患者200人(平均年齢56歳、女性31%)を対象にランダム化比較試験を実施し、ダルババンシンの有効性と安全性を標準治療との比較で検討した。複雑性黄色ブドウ球菌菌血症は、2011年米国感染症学会ガイドラインによる単純性菌血症の基準を満たさない症例と定義された。 患者は、ダルババンシン1,500mgをランダム化後1日目と8日目に投与する群(ダルババンシン群、100人)と、標準治療である抗菌薬(メチシリン感受性株に対してはセファゾリンまたは抗ブドウ球菌ペニシリン、メチシリン耐性株に対してはバンコマイシンまたはダプトマイシン)を4~8週間にわたり毎日静脈内投与する群(標準治療群、100人)に割り付けられた。標準治療では、末梢挿入式中心静脈カテーテル(PICC)と呼ばれる長いカテーテルを、通常は腕の静脈に挿入して抗菌薬を投与する。PICCは治療期間中ずっと留置されるため、装着者には多くの活動制限が生じる。また、長期間のカテーテル留置と使用は、血栓やさらなる感染症などの合併症につながる可能性もある。一方、ダルババンシン療法では、短いカテーテルを手または腕の静脈に2回、1回につき1時間挿入するだけで済む。 主要評価項目は、70日目により望ましい転帰を得られる確率(desirability of outcome ranking;DOOR)であり、これは、1)臨床的成功、2)感染性合併症、3)安全性に関する合併症(重篤な有害事象、治療の中止に至る有害事象)、4)死亡、5)健康関連QOLの5つの要素の評価を基に優越性(ダルババンシン群が優れている確率の95%信頼区間が50%を超えるか)を判定する総合指標である。副次評価項目は、70日目の臨床効果(非劣性マージンを20%に設定)と安全性とされた。 70日目まで生存していた167人(84%)を対象に解析が行われた。ダルババンシン群と標準治療群を比べたとき、70日目により望ましい転帰を得られる確率は47.7%(95%信頼区間39.8〜55.7%)であり、優越性の基準を満たさなかった。副次評価項目である70日目での臨床効果は、ダルババンシン群73人、標準治療群72人であった。両群の差は1.0%(95%信頼区間−11.5~13.5%)であり、事前に設定されていた非劣性マージンを満たしたことから、ダルババンシンは標準治療に対して臨床的に劣らないことが示された。重篤な有害事象は、ダルババンシン群で40人、標準治療群では34人で報告された。また治療の中止に至る有害事象は、標準治療群で12人に生じたのに対し、ダルババンシン群では3人にとどまっていた。 Turner氏は、「われわれの研究結果は、患者と医療提供者に、複雑性黄色ブドウ球菌菌血症の治療方針を決める際に追加の選択肢があることを裏付けるデータを提供している」と述べている。研究グループは、次の研究でこれらの2つの治療アプローチの費用対効果を比較する予定であるとしている。(HealthDay News 2025年8月14日) https://www.healthday.com/health-news/infectious-disease/new-means-found-for-treating-blood-staph-infections Copyright © 2025 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Artur/Adobe Stock