厳格な血圧コントロールは心血管疾患のリスクが高い患者の健康だけでなく、医療費の費用対効果にも良い影響をもたらすことが、新たな研究で示された。収縮期血圧(SBP)の目標値を120mmHg未満に設定することは、それよりも高い目標値を設定する場合と比べて、より多くの心筋梗塞や脳卒中、心不全、そのほかの心疾患の予防につながるほか、費用対効果もより優れていることが明らかになったという。米ブリガム・アンド・ウイメンズ病院のKaren Smith氏らによるこの研究結果は、「Annals of Internal Medicine」に8月19日掲載された。 論文の筆頭著者であるSmith氏は、「この研究は、心血管リスクが高い患者やその診療に当たっている医師にとって、厳格な血圧目標値の達成に向けて取り組むことにさらなる自信を与えるはずだ」とマス・ジェネラル・ブリガム(MGB)のニュースリリースの中で述べている。また同氏は、「われわれの研究結果は、SBPが120mmHg未満という厳格な目標値が、より多くの心血管イベントを予防し、かつ費用対効果も優れていることを示唆している。さらに、このことは測定値が必ずしも完璧でない場合でも当てはまる」と説明している。 現行の血圧管理のガイドラインでは、SBPが130mmHg以上の場合を高血圧と定義している。米国心臓協会(AHA)によると、正常血圧はSBPが120mmHg未満であり、120~129mmHgの場合は血圧上昇とされている。 Smith氏らはこの研究で、画期的な臨床試験として知られるSystolic Blood Pressure Intervention Trial(SPRINT)などの既存の臨床試験や文献のデータ(2013~2018年)を収集・統合した。その上で、そのデータを用いて、50歳以上の心血管疾患のリスクが高い患者がSBPの目標値を、1)120mmHg未満、2)130mmHg未満、3)140mmHg未満に設定した場合の生涯にわたる心臓の健康リスクをシミュレーションした。また、降圧薬による重度の副作用のリスクや、日常的な血圧測定における一般的な誤差も考慮に入れた。 その結果、血圧測定値に誤差が含まれていても、SBPの目標値を120mmHg未満に設定する方が、130mmHg未満に設定する場合よりも多くの心血管疾患を予防できることが示された。一方、降圧の目標値をより厳格に設定することで、処方薬や通院回数が増え、医療費も高くなり、また転倒や腎障害、低血圧、徐脈など治療関連の有害事象の発生頻度も高まることが明らかになった。それでもなお、目標値を120mmHg未満に設定することは、目標値をより高く設定した場合と比べて費用対効果に優れていた。例えば、目標値を120mmHg未満とすることは、質調整生存年(QALY)1年当たり4万2,000ドル(1ドル147円換算で約617万円)のコストと関連していたが、この額は130mmHg未満を目標とした場合と比べてわずか1,300ドル(同約19万円)高いだけであった。 ただしSmith氏は、「降圧薬に伴う有害事象のリスクを考慮すると、厳格な血圧コントロールが全ての患者に適しているとは言えない」と述べ、慎重な解釈を求めている。さらに同氏は、「患者の希望に基づき、患者と医師が協力して適切な治療強度を見極めることが重要だ」と強調している。(HealthDay News 2025年8月20日) https://www.healthday.com/health-news/cardiovascular-diseases/tight-blood-pressure-control-both-healthy-and-cost-effective-projections-say Copyright © 2025 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock