赤肉を大量に摂取すると、致死的となることもある腹部大動脈瘤(AAA)の発症リスクが高まる可能性があるようだ。赤肉や他の動物性食品に含まれる成分は、腸内細菌によって分解されたのち、肝臓で酸化されてTMAO(トリメチルアミンN-オキシド)となり、血液中に蓄積する。新たな研究で、血中のTMAOレベルが高い人ほどAAAの発症リスクが高いことが示された。米クリーブランド・クリニック血管医学部門長のScott Cameron氏らによるこの研究結果は、「JAMA Cardiology」に8月20日掲載された。 AAAは腹部の最も太い動脈(腹部大動脈)に瘤のような膨らみが生じる病態である。通常、大動脈の壁は、心臓から送り出される血液の圧力に耐えられる程度に強固である。しかし、動脈硬化などにより部分的に血管壁が弱くなると、そこに膨らみが生じる。このような大動脈瘤は、大きくなるにつれて破裂のリスクが高まり、破裂が病院外で発生した場合には、80%のケースで致死的になるという。 Cameron氏によると、現状ではAAAに対する治療選択肢は手術かステント留置術のみであり、動脈瘤リスクを有する人を予測できる血液検査は存在しない。また、AAA患者は通常、大動脈が破裂して体内に大量出血が起こるまで症状が現れないという。 動物実験では、TMAOはAAAの進行や破裂を促進することが報告されている。今回の研究では、大動脈の定期的な画像検査サーベイランスを受けている2つのコホートのデータを用いて、TMAOレベルとAAA発症や急速な拡大(年間4.0mm以上)、外科手術が推奨される状態(直径5.5cm以上、または急速な拡大)との関連が検討された。コホートの1つはヨーロッパ人(237人、年齢中央値65歳、男性89.0%)、もう1つは米国人(658人、年齢中央値63歳、男性79.5%)で構成されていた。 解析の結果、ヨーロッパコホートでは、血中のTMAOレベルが高いことはAAAの従来のリスク因子(喫煙、高血圧など)や腎機能とは独立してAAAリスクの上昇と関連していることが示された。また、高TMAOにより、急速に拡大するAAAのリスク(調整オッズ比2.75、95%信頼区間1.20〜6.79)、および手術が推奨される状態になるリスク(同2.67、1.24〜6.09)を予測できる可能性も示された。さらに、米国コホートでも、ヨーロッパコホートと米国コホートを統合して解析しても、同様の結果となることが確認された。 Cameron氏は、「これらの結果は、TMAOレベルを標的とすることが、手術以外の動脈瘤疾患の予防と治療に役立つ可能性があることを示唆している」と述べている。また研究グループは、今回の結果がAAAの有効な血液検査の開発につながる可能性があるとの見方も示している。 さらに研究グループは、本研究結果が、AAAリスクを有する人が赤肉の摂取量を減らすことで、自らを守るための対策を講じるのに役立つ可能性があると話している。論文の上席著者である、クリーブランド・クリニック心臓血管・代謝科学部長のStanley Hazen氏は、「TMAOの生成には腸内細菌が関与しており、動物性食品や赤肉を摂取すると、そのレベルが高くなる。TMAOの産生経路を標的とした薬剤は、前臨床モデルにおいて動脈瘤の発生と破裂を阻止することが示されているが、ヒトではまだ利用できない。本研究結果は、手術が必要になるまで経過観察する現在の臨床診療と比較して、大動脈の拡張や早期動脈瘤の予防や治療における食事療法の重要性を示唆しているため、共有する価値がある」と述べている。 ただし研究グループは、赤肉や動物性食品を多く含む食生活とAAAを直接結び付けるには、さらなる研究が必要だと指摘している。(HealthDay News 2025年8月22日) https://www.healthday.com/health-news/cardiovascular-diseases/red-meat-might-increase-risk-of-potentially-deadly-abdominal-aneurysm Copyright © 2025 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Siasart Stock -- Adobe Stock