肥満症治療薬として使用されているオゼンピックやゼップバウンドなどのGLP-1受容体作動薬は、単に体重を減らすだけでなく、地球環境の保護にも役立っている可能性のあることが、新たな研究で示された。これらの薬が心不全患者の減量目的で使用されると、温室効果ガス排出量の削減につながるという。米Lahey病院・医療センターのSarju Ganatra氏らによるこの研究結果は、欧州心臓病学会年次総会(ESC Congress 2025、8月29日~9月1日、スペイン・マドリード)で発表された。 Ganatra氏らは、左室駆出率の保たれた心不全(HFpEF)患者(GLP-1受容体作動薬を投与された患者1,914人、プラセボを投与された患者1,829人)を対象とした4件の臨床試験のデータを統合して解析した。HFpEFとは、心臓の収縮機能は保たれているものの、心筋が硬いために十分に拡張できず、血液を十分に取り込めない状態を指す。米国心臓病学会(ACC)によれば、心不全患者のほぼ半数がこのタイプに分類される。 心不全悪化イベントの発生数は、GLP-1受容体作動薬を投与された患者では54件であったのに対し、プラセボを投与された患者では86件だった。心不全悪化イベントには入院と病院の往復を伴うと仮定して二酸化炭素(CO2)排出量を推算すると、GLP-1受容体作動薬を使用したHFpEF患者の年間CO2排出量は1人当たり9.45kgと推定され、プラセボ群の9.7kgと比べて少ないことが示された。 Ganatra氏は、「この数値をGLP-1受容体作動薬による治療の対象となる何百万人もの患者に当てはめると、20億kg以上のCO2換算量の削減につながる」と言う。同氏らによると、20億kgのCO2は、満席のボーイング747型機の長距離フライト2万便にほぼ相当し、また、この量のCO2を吸収するには、植えられてから10年が経過した約3,000万本の木が必要になるという。 Ganatra氏はさらに、ESCのニュースリリースの中で、医療廃棄物の発生量や水の使用量についても、同様の規模の削減が見られた」と述べている。その上で同氏は、「今回の研究は、個々の小さな改善の積み重ねが、集団全体として大きなインパクトをもたらすことを明確に示している」と説明している。 さらに、GLP-1受容体作動薬を使用した患者では食物の摂取量が減り、そのことが気候にも良い影響を与えると推定された。Ganatra氏らの推計によると、プラセボ群と比べてGLP-1受容体作動薬群では1日当たりの摂取カロリーが減少したことで年間およそ695kg分のCO2排出量の削減につながったという。 今回の研究結果についてGanatra氏は、「薬物治療から患者の健康状態の改善と地球環境の健全化という2つのメリットを得られる可能性を示した結果だといえる」と述べ、「将来的には政策立案者が医療技術の評価や医薬品の保険適用の決定、医薬品調達の枠組みなどにサステナビリティの指標を組み込むことを期待している」と付け加えた。 Ganatra氏らは次の段階として、実際の排出データと臨床アウトカムを用いてモデルを検証する予定だ。同氏は、「将来的には、臨床試験のデザインや医薬品の規制プロセス、処方の決定に環境への影響が組み込まれ、医療システムがプラネタリーヘルス(地球環境と人類の健康の両立)に関する目標と連携できるようになることを期待している」と話している。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。(HealthDay News 2025年8月28日) https://www.healthday.com/health-news/cardiovascular-diseases/glp-1-drugs-are-good-for-climate-change-heart-study-says