心筋梗塞患者に頻繁に処方されるβ遮断薬は、心機能が保たれている心筋梗塞患者の全死因死亡や心筋梗塞の再発、心不全による入院に影響しないことが、新たな研究で示された。スペイン国立心臓血管研究センターの科学ディレクターであるBorja Ibáñez氏らによるこの研究結果は、欧州心臓病学会年次総会(ESC Congress 2025、8月29日~9月1日、スペイン・マドリード)で発表されるとともに、「The New England Journal of Medicine(NEJM)」に8月30日掲載された。 Ibáñez氏らは、「この研究結果は、40年間続いた治療基準を覆す可能性がある」との見方を示している。同氏は、「現在、合併症のない心筋梗塞患者の80%以上が退院時にβ遮断薬を処方されている。これは、数十年ぶりに心筋梗塞治療の分野における重要な進歩の一つとなる結果だ」と述べている。 β遮断薬は、「闘争・逃走反応」を引き起こすホルモンであるアドレナリンが作用するβ受容体を阻害する作用を持つ。これにより、心拍数上昇の抑制や心筋の弛緩、血圧低下などの効果を期待できる。ただし、心臓の収縮機能が低下していない心筋梗塞患者におけるβ遮断薬の使用に関する現在のガイドラインは、標準的な血行再建術や現行の薬物療法などが普及する前の研究結果に基づいている。 Ibáñez氏らは今回、スペインとイタリアで、急性心筋梗塞(ST上昇型・非ST上昇型の両方)発症後の左室駆出率(LVEF)が40%以上の患者を対象にランダム化比較試験を実施し、β遮断薬投与群(4,243人)と非投与群(4,262人)で全死因死亡、心筋梗塞再発、および心不全による入院に与えるβ遮断薬の影響を比較した。最終的に8,438人が解析対象とされた。 中央値で3.7年の追跡期間中に、主要評価項目である全死因死亡・心筋梗塞再発・心不全による入院の複合エンドポイントが、β遮断薬投与群で316人(1,000人年当たり22.5人)、非投与群で307人(1,000人年当たり21.7人)に発生した。ハザード比は1.04(95%信頼区間0.89〜1.22、P=0.63)で、両群間に有意な差はなかった。アウトカムを個別に検討しても、両群間に有意差は認められなかった。 ただし、この結果は、心筋梗塞により心臓が損傷を受けていない人にのみ当てはまることが、「The Lancet」に8月30日掲載された本研究の追跡調査解析で明らかにされている。この研究によると、心筋梗塞により心臓のポンプ機能が中程度に低下した患者においては、β遮断薬の投与により保護効果が得られることが示されたという。 さらに事態を複雑にしているのは、「European Heart Journal」に8月30日掲載された、本試験のデータを解析した別研究において、女性のβ遮断薬投与群では、非投与群に比べて、死亡・心筋梗塞再発・心不全による入院の複合エンドポイントの発生率が有意に高いことが示されたことだ。このようなリスク上昇の要因は主に死亡リスクの上昇であり、特に、LVEFが保たれた女性とより高用量のβ遮断薬を投与された女性で顕著だった。 これら2本の追跡調査研究で筆頭著者を務めたソン・エスパセス大学病院(スペイン)のXavier Rosselló氏は、「これらの研究結果は、心筋梗塞患者に対する画一的なアプローチは不適切であり、心血管介入の処方には性別に特化した考慮が重要であることを示唆している」と述べている。 Ibáñez氏は、「今日では、閉塞した冠動脈は系統的に迅速に再開通され、不整脈などの重篤な合併症のリスクが大幅に低下している。心臓へのダメージが小さいこの状況でのβ遮断薬の必要性は明確ではない」と指摘している。(HealthDay News 2025年9月3日) https://www.healthday.com/health-news/cardiovascular-diseases/study-casts-doubt-on-use-of-beta-blockers-post-heart-attack-especially-for-women Copyright © 2025 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock