アルドステロンというホルモンを合成する酵素を阻害する新薬のバクスドロスタットの投与により、既存の薬では高血圧をコントロールできなかった慢性腎臓病(CKD)患者の収縮期血圧が約5%低下したとする第2相臨床試験(FigHTN)の結果が報告された。米ユタ大学保健学部のJamie Dwyer氏らによるこの研究結果は、米国心臓協会(AHA)のHypertension Scientific Sessions 2025(9月4〜7日、米ボルチモア)で発表されるとともに、「Journal of the American Society of Nephrology」に9月6日掲載された。Dwyer氏は、「CKDと高血圧を抱えて生きる人にとって、この研究結果は励みになる。この2つの病状はしばしば同時に進行し、危険な悪循環を生み出す」と述べている。 CKDと高血圧は密接に関連しており、適切に管理されない場合、心筋梗塞、脳卒中、心不全、腎不全への進行などの深刻な転帰を招く可能性がある。副腎から分泌されるアルドステロンは、体内でのナトリウムと水分の保持を促すことで血圧の上昇を引き起こす。このホルモンが過剰になると、時間の経過とともに血管の硬化と肥厚が起こり、心臓の損傷や腎臓の瘢痕化につながる可能性があり、高血圧と慢性腎臓病の両方に悪影響を与え得る。 今回の試験では、CKDを有し、ACE(アンジオテンシン変換酵素)阻害薬またはARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)による治療を受けても高血圧が十分にコントロールされていない195人の患者(平均年齢66歳、女性32%)を対象に、バクスドロスタットの有効性が検討された。対象患者の選定基準は、座位収縮期血圧が非糖尿病患者で140mmHg以上、糖尿病患者で130mmHg以上、かつ尿アルブミン/クレアチニン比(UACR)が100mg/g以上とした。患者は、26週間にわたり低用量(0.5mgから最大1mgまで漸増)のバクスドロスタットを投与する群(低用量群)、高用量(2mgから4mgまで漸増)の同薬を投与する群(高用量群)、およびプラセボを投与する群(プラセボ群)にランダムに割り付けられた。主要評価項目は、26週時点の座位収縮期血圧のベースラインからの変化量とされた。 ベースライン時の平均収縮期血圧は151.2mmHg、平均推算糸球体濾過量(eGFR)は44mL/分/1.73m²、UACRの中央値は714mg/gであった。26週間後のプラセボ群と比べた収縮期血圧の低下の幅は、バクスドロスタット投与群全体で−8.1mmHg(P=0.003)、低用量群で−9.0mmHg(P=0.004)、高用量群で−7.2mmHg(P=0.02)であった。 また、バクスドロスタット投与群では、プラセボ群と比較して、UACRが55.2%減少した。尿中のアルブミン値が高いことは、心臓病や腎臓病の予測因子と考えられている。Dwyer氏は、「これは、バクスドロスタットによる治療により長期的な利益を得られる可能性を期待させる結果だ」と指摘。「尿中アルブミン値の減少は、バクスドロスタットが腎障害進行の遅延にも役立つ可能性があることを示している。この可能性は現在、2つの大規模な第3相試験で評価されているところだ」とコメントしている。 バクスドロスタットの投与に伴い最も多く見られた副作用は血中カリウム濃度の上昇で、バクスドロスタット投与群の41%に発生したのに対し、プラセボ群ではわずか5%だった。ただし、ほとんどの症例は軽度から中等度であった。 AHAの高血圧および腎臓心血管科学委員会の前委員長である米ペンシルベニア大学ペレルマン医学部のJordana Cohen氏は、「高血圧やレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系の亢進を伴うCKD患者を対象とした試験で、薬剤への耐性が良好で、血圧とアルブミン尿の両方に効果があったことは、非常に心強い。この薬剤クラスは、CKD患者の高血圧管理に画期的な変化をもたらす可能性がある」とAHAのニュースリリースの中で述べている。なお、本研究は、バクスドロスタットの開発元であるアストラゼネカ社の資金提供を受けて実施された。(HealthDay News 2025年9月8日) https://www.healthday.com/health-news/cardiovascular-diseases/new-pill-lowers-stubborn-bp-in-kidney-patients Copyright © 2025 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock