母親が朝に搾乳した母乳を乳児に夕方に与えると、母乳が持つ本来のリズムと異なる合図を乳児に与えてしまう可能性があるようだ。母乳の中には、乳児の睡眠・覚醒リズムに関与すると考えられるホルモンや免疫因子なども含まれているが、それらは日内で変動することが、新たな研究で明らかにされた。このことから研究グループは、午前中に搾乳して保存した母乳を午後や夕方に与えると、意図せず乳児の休息を妨げる可能性があると警告している。米ラトガース大学栄養科学分野のMelissa Woortman氏らによるこの研究結果は、「Frontiers in Nutrition」に9月5日掲載された。 Woortman氏は、「母乳は栄養価の高い食品だが、搾乳した母乳を乳児に与える際には、タイミングを考慮する必要がある」と話している。また、論文の上席著者であるラトガース大学生化学・微生物学分野教授のMaria Gloria Dominguez-Bello氏は、「このような情報を受け取るタイミングは、幼少期、とりわけ、体内時計がまだ発達段階にある乳児期には特に重要だろう」と同大学のニュースリリースの中で述べている。 医師は母乳を、乳児の免疫システムの構築や成長中の身体の栄養を助けるビタミン、ミネラル、化合物を豊富に含む「スーパーフード」と見なしている。母乳は乳児にとって最良の栄養源であると広く考えられている。しかし、1日を通して常に直接授乳することができないため、搾乳して保存しておいた母乳を後で与える母親は少なくない。 今回の研究は、38人の授乳中の母親から、1日(24時間)の中で4つの異なる時間帯(午前6時、正午、午後6時、午前0時)に採取した母乳サンプルを収集し、その成分の変動を解析した。調べた成分は、メラトニン、コルチゾール、オキシトシン、免疫グロブリンA(IgA)、ラクトフェリンで、いずれもELISA法を用いて濃度を測定した。また、微生物組成は16S rRNA解析により評価した。 メラトニンとコルチゾールは、いずれも睡眠・覚醒リズムに関与するホルモンであり、メラトニンは夜間に分泌が増えて睡眠を促し、コルチゾールは朝に分泌が増えて覚醒を促す。オキシトシンは「愛情ホルモン」とも呼ばれ、母子の絆形成に関与するとされる。IgAは免疫系によって産生される抗体の一種であり、ラクトフェリンは糖タンパク質で乳児をさまざまな感染症から守る働きを持つ。これらはいずれも乳児の免疫機能や消化器系の発達などに影響を与える。 解析の結果、メラトニンとコルチゾールの濃度には明確な日内変動が認められ、メラトニンは真夜中、コルチゾールは早朝に濃度がピークに達することが明らかになった。この結果についてWoortman氏は、「血液中のホルモンは概日リズムに従って変動する。授乳中の母親では、それが母乳に反映されやすい。メラトニンやコルチゾールなどのホルモンも、概日リズムに従って母体循環から母乳に移行する」と説明している。他の成分は、1日を通してほぼ安定していた。一方、母乳中の微生物組成は昼夜で変動し、夜間には皮膚由来の細菌、日中には環境由来の細菌が増加することが示された。 研究グループは、「この結果は、搾乳した母乳はできるだけ採乳・保存した時間帯に合わせて与えるべきであることを示唆している」と述べている。Dominguez-Bello氏は、「搾乳した母乳に『朝』『午後』『夕方』のラベルを貼り、それに応じて授乳すれば、搾乳と授乳のタイミングをそろえ、母乳本来のホルモン・微生物組成や概日リズムの情報を保つのに役立つ可能性がある」とアドバイスしている。一方、Woortman氏は、「母親が1日中乳児と一緒にいることが難しい現代社会において、授乳時間と搾乳時間を合わせることは、搾乳した母乳を与える際に母乳のメリットを最大限に引き出すシンプルで実用的な方法だ」と述べている。(HealthDay News 2025年9月5日) https://www.healthday.com/health-news/child-health/breast-milk-timing-crucial-for-babies-sleep-researchers-say Copyright © 2025 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock