車酔いや船酔いのときには気分が良くなる音楽を聴くと良いことが、新たな研究で示唆された。ヨット・ロックや明るいポップミュージックのような音楽が、乗り物酔いによる吐き気の緩和に役立つ可能性のあることが明らかになったという。西南大学(中国)のQizong Yue氏らによるこの研究の詳細は、「Frontiers in Human Neuroscience」に9月3日掲載された。 この研究では、穏やかで楽しい音楽を聴いた人は乗り物酔いからより早く回復する傾向にあることが明らかになった一方で、悲しい音楽は何の役にも立たないどころか、むしろ逆効果になる可能性も示唆されたという。Yue氏は、「われわれの結論に基づけば、移動中に乗り物酔いの症状を経験している人は、明るい音楽や穏やかな音楽を聴くことでその症状を和らげることができる」とFrontiers Media社のニュースリリースの中で述べている。 Yue氏らはこの研究で、特別に調整されたドライビング・シミュレーターを使用して30人の参加者の車酔いを誘発した。参加者は脳波を記録するため頭にEEGキャップを装着した。シミュレーターは、ビデオゲームの「Forza Horizon 5」と道路走行時の揺れを再現する装置を組み合わせたものだった。 参加者は5人ずつ6つのグループに分けられた。このうち4つのグループでは乗り物酔いが誘発された後に、1)楽しい音楽、2)穏やかな音楽、3)感動的な音楽、4)悲しい音楽、のいずれかを1分間聴いた。一方、5つ目のグループは、乗り物酔いスコアが2(ほぼ乗り物酔いなし)に達した時点で脳波(EEG)を測定するベースライン群、6つ目のグループは、乗り物酔いが誘発された後も音楽による介入は行わず1分間の瞑想を行う対照群とされた。 その結果、車酔いに最も効果があるのは楽しい音楽と穏やかな音楽で、症状をそれぞれ56.7%と57.3%軽減することが示された。また、情熱的な音楽では48.3%の軽減効果が確認された。一方、対照群では1分間の瞑想後に43.3%の軽減が認められたのに対し、悲しい音楽を聴いた群では40%の軽減にとどまっていた。 Yue氏らによると、試験参加者の乗り物酔いの症状の程度はEEGのデータと関連しており、乗り物酔いがある間、後頭葉の脳活動に変化が見られたという。後頭葉は視覚情報を処理する脳領域である。またEEGからは、乗り物酔いがひどいときには後頭葉の活動の複雑性が低下し、症状が改善するにつれて活動が正常なレベルに戻ることが分かった。 Yue氏らは、穏やかな音楽は人々をリラックスさせ、吐き気を悪化させる緊張を和らげる可能性があり、楽しい音楽は不快感から注意をそらしたり、車酔いの影響を打ち消す脳の報酬系を活性化させたりする可能性があるとの推測を示している。その一方で、悲しい音楽はネガティブな感情を増幅させ、不快感を高める可能性があるという。 Yue氏らは、この実験は運転中に行われたが、他の状況でも音楽によって同様の効果が得られるはずだとの見方を示している。Yue氏は、「乗り物酔いが生じる基本的な理論的枠組みは、さまざまな乗り物によって引き起こされる乗り物酔い全般に広く当てはまる。したがってこの研究結果は、飛行機や船で経験する乗り物酔いにも当てはまる可能性が高い」と述べている。 ただしYue氏らは、より多くの参加者を対象とした今後の研究で、この結果を検証する必要があると話している。また、実際の道路環境で追加の研究を行う必要性もあるとの見解を示しており、そのような研究ではシミュレーションとは異なる脳への影響が見られる可能性があると述べている。(HealthDay News 2025年9月5日) https://www.healthday.com/health-news/neurology/music-soothes-savage-motion-sickness-experiment-shows Copyright © 2025 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock