アマゾンの森林破壊は、環境を脅かすだけでなく、人々を病気にする恐れもあるようだ。アマゾンの先住民族によって森林が保護・管理されている地域では、特定の病気の発生率が低いことが明らかになった。国際自然保護連合(IUCN)の上級プログラムコーディネーターを務めるPaula Prist氏らによるこの研究の詳細は、「Communications Earth & Environment」に9月11日掲載された。 Prist氏らは、「この研究結果は、先住民族のコミュニティが長年信じてきたこと、すなわち人間の健康と森林の健全性は深く結び付いているという信念を裏付けるエビデンスとなる」と述べている。ペルーのFederation of Ticuna and Yagua Communities of the Lower Amazon(FECOTYBA、アマゾン下流域のTicunas族およびYaguas族の先住民連合)のFrancisco Hernández Cayetano氏は、「先住民族の視点に立つと、『forest man』あるいは『man forest』は常に、人間の健康と人が暮らす自然環境との相互関係に結び付けられている」とAP通信に対して語っている。同氏は、「各国が先住民族の権利と領土を保証しなければ、彼らの健康、生活、さらに生態系そのものに悪影響を与えることは避けられないだろう」と付け加えている。 この研究では、ブラジルやペルーなど8カ国および1つの海外領土にまたがるパン・アマゾン地域を対象に、森林の面積や構造、先住民族の領土の法的承認と、呼吸器疾患などの火災関連疾患および人獣共通/ベクター媒介性感染症の発生率との関連を調査した。ベクター媒介性感染症とは蚊やノミなどの媒介生物(ベクター)を介して伝播するマラリアなどの感染症のことである。 その結果、先住民族の領土の広がりは、領土の森林面積や構造などの条件によって複雑で非線形な影響を及ぼすものの、概して火災関連疾患の発生を減らす可能性のあることが示された。特に、領土の外側にも森林が多く残る場所では、微小粒子状物質PM2.5の健康への影響が緩和され、火災関連疾患の発生が減少していた。一方で、先住民族の領土の存在は人獣共通/ベクター媒介性感染症のリスクを高める可能性があるが、その影響は森林構造に依存することが示された。例えば、領土全体の森林被覆率が40%以上ある場合には、森林が縁辺部の密度の影響を緩和し、疾患発生が抑制されることが示された。 Prist氏は、「この研究結果は、政策が経済的ニーズと健康ニーズのバランスを取らなければならない理由を示している。世界には経済的なサービスを提供する景観だけでなく、人々の健康を守るサービスを提供する景観も必要である」とAP通信に語っている。 本研究結果をレビューした、米アリゾナ州立大学テンピ校人類学およびグローバルヘルス分野のMagdalena Hurtado氏は、「この研究では、先住民族の領土の森林被覆率が40%を超える場合にのみ居住者の健康を守れることが示された。しかし、なぜ40%なのか、35%ではダメなのだろうか、なぜ範囲で示されないのかなど、さまざまな疑問がわいてくる」と話す。同氏は、本研究結果は重要であるものの相関関係に依存しているため、他の方法を使用して検討すると異なる結果になる可能性があると強調している。それでも同氏は、本研究が先住民族の土地の権利と測定可能な健康上の利益との関連を示した点を高く評価している。 米ワシントン大学のKristie Ebi氏などの他の専門家は、この研究は、生態系が健康に及ぼす影響の複雑さを浮き彫りにしているとの見方を示している。Ebi氏は、「本研究で用いた手法を使えば、他の研究者も世界の他の地域を研究できるだろう」と述べている。 一方、Cayetano氏は、「先住民族である私からすると、この種の研究によってわれわれの先祖伝来の知識がより目に見える形で、より正確なものになるように思う」と述べ、このような研究の重要性を強調している。(HealthDay News 2025年9月12日) https://www.healthday.com/health-news/environmental-health/protecting-amazon-forests-may-also-protect-human-health-study-finds Copyright © 2025 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit:George Dolgikh/Adobe Stock