血液サンプルを用いて複数種類のがんの有無を検査する多がん検出(multicancer early detection;MCD)検査(以下、MCD検査)は、目に見えない腫瘍を発見できる可能性があるため、大きな注目を集めている。しかし、MCD検査によるスクリーニングのベネフィットを評価した、完了した対照試験は存在せず、この検査法の有効性を判断するには時期尚早であるとする研究結果が発表された。米RTI-ノースカロライナ大学Evidence-based Practice Centerの最高医療責任者代理であるLeila Kahwati氏らによるこの研究結果は、「Annals of Internal Medicine」に9月16日掲載された。 MCD検査は、未検出の腫瘍から血液中に放出されたDNAやタンパク質、その他の生化学物質を検出することで、がんの有無を判定する。MCD検査のいくつかは、医師の診断書があれば製造元からオンラインで注文できる。ただし、いずれも米食品医薬品局(FDA)の承認を受けていない。 研究グループは、がんによる死亡の最大70%は、スクリーニング検査が存在しない悪性腫瘍によって引き起こされていることを考慮すると、このような検査が注目を集めるのは不思議ではないと話す。本研究の付随論評を執筆した、米フォックス・チェイスがんセンターの医学部長であるDavid Weinberg氏によると、検査費用は通常、保険ではカバーされず、約950ドル(1ドル148円換算で約14万円)かかるという。 Kahwati氏らは今回、無症状の人を対象にMCD検査の有効性を調べた20件の対照研究(対象者の総計10万9,177人)を基に、MCD検査の有益性、正確性、有害性について評価した。これらの研究では、19種類のMCD検査の正確性について報告されていた。20件のうち7件の研究(バイアスリスク:高5件、不明2件)は、無症状者を1年間追跡して将来のがん発症に対する予測精度を評価していた。残りの研究は、臨床的に確定したがん患者と健康な対照者を比較する症例対照研究でMCD検査の診断精度を評価したもので、いずれもバイアスリスクは高かった。 解析の結果、検査の正確性はがんの種類や参加者、研究デザインにより大きく異なり、感度は0.095〜0.998、特異度は0.657〜1.0、総合的な診断精度の指標であるROC曲線下面積(AUC)は0.52〜1.0の幅があった。有害性について報告していた研究は1件のみであり、その情報も限定的であった。 Kahwati氏らは、「このシステマティックレビューでは、MCD検査によるスクリーニングががんの検出、死亡率、生活の質(QOL)に与える影響を検討した、完了した対照研究は確認されなかった。研究の限界と不明確または矛盾した結果が主な原因で、MCD検査の正確性と有害性に関するエビデンスは不十分であることが分かった」と述べている。 さらにKahwati氏らは、「最も重大な限界点は、MCD検査の直接的なベネフィットを評価する、完了した対照研究がないことだ」と指摘している。これは、検査によるベネフィットが、偽陽性の結果によりもたらされる潜在的な有害性を上回るかどうかが明らかではないことを意味する。例えば、健康な人に偽陽性の結果が出た場合、がんではないとの確認が取れるまで、誤った検査結果によって引き起こされた恐怖や不安に耐えながら、より侵襲的な検査を受ける必要が生じる。同氏らは、「MCD検査によりがんの種類を正確に特定できる可能性はあるが、正確性のエビデンスだけでは、この検査が現在推奨されているスクリーニング検査よりも大きなメリットがあることを示したことにはならない」と記している。 研究グループとWeinberg氏は、MCD検査が広く推奨される前にその有用性を確認するさらなる研究が必要だとの見解を示している。またWeinberg氏は、「疾患による死亡率は着実に減少しているにもかかわらず、がんは依然として、米国成人の死因として2番目に多い。MCD検査のがん予防効果には期待を持てるが、真の臨床的有用性を示すデータは不十分であり、その有用性と潜在的な有害性のバランスをどのように評価すべきかが課題となっている。迅速な対応を求める市場からの圧力はあるが、最善の判断を下すにはそのようなデータが必要であり、それが得られるまでは研究環境以外での試験を正当化することは困難だ」と述べている。(HealthDay News 2025年9月16日) https://www.healthday.com/health-news/cancer/researchers-too-soon-to-tell-if-liquid-biopsies-help-more-than-harm-in-cancer-screening Copyright © 2025 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock