新学期を迎え、若いアスリートが再び学校や大学のグラウンドに出る季節となった。こうした中、身体の接触を伴うコンタクトスポーツへの参加で若いアスリートたちの貴重な脳の力が犠牲になり得ることが、新たな研究で示された。アメリカンフットボールやサッカー、アイスホッケーなどのスポーツをしている若いアスリートでは、頭部衝撃を繰り返し受けることでニューロン(脳神経細胞)の減少や炎症、脳血管の損傷が引き起こされる可能性のあることが明らかになったという。米国立衛生研究所(NIH)などの資金提供を受けて米ボストン大学CTEセンターのJonathan Cherry氏らが実施したこの研究の詳細は、「Nature」に9月17日掲載された。 Cherry氏らによると、反復的な頭部衝撃(repetitive head impact;RHI)によって引き起こされる慢性外傷性脳症(chronic traumatic encephalopathy ;CTE)を発症していない選手にも、そのような影響が及ぶ可能性があるという。Cherry氏は、「この結果は、コンタクトスポーツに対するわれわれの見方を大きく変える可能性がある。RHIを受けることはニューロンを死滅させ、CTEとは無関係に長期的な脳損傷を引き起こす可能性があることが示唆された」とニュースリリースの中で述べている。 これまでも、RHIによりCTEが現れる何年も前から脳に変化が生じる可能性が疑われていたが、CTEは死後にしか確定診断できないため、その証明は困難だった。Cherry氏らは今回の研究で、51歳以下の男性28人から採取された凍結ヒト脳組織標本を分析した。そのうち9個はCTEの診断歴がないがRHIを受けていたアメリカンフットボール選手またはサッカー選手から、11個は軽度のCTEがあったコンタクトスポーツ選手から、残る8個はコンタクトスポーツをしていなかった男性(対照群)から採取された標本だった。 その結果、RHIを受けた経験のある人では対照群と比べて、CTEの有無にかかわらず、大脳皮質の浅層(第2・3層)の特定の興奮性ニューロンが平均で56%も失われていることが明らかになった。また、コンタクトスポーツをプレーしていた期間が長いほど脳の免疫細胞であるミクログリアが活性化していることや、脳内の血管にも重大な変化が起きていることも判明した。このことから、CTEが明らかになるはるか前から炎症や脳損傷の土台が作られている可能性が考えられる。 Cherry氏は、「若いアスリートは、一般的には健康であるため、脳にニューロンの喪失や炎症があるとは思わないだろう。今回の研究結果は、RHIがこれまで考えられていたよりもはるかに早い段階から脳損傷を引き起こすことを示している」と述べている。 コンタクトスポーツによってもたらされるこうしたリスクは注視すべき問題である。Cherry氏は、「CTEのリスクはコンタクトスポーツでのRHIへの曝露と直接関係している」と指摘した上で、「今回の研究結果は、CTEと診断されていない選手でも脳に大きな損傷が生じる可能性があることを示している。こうした変化がどのように起こるのか、そして生きている間にどのようにそれを検出できるのかを明らかにすることは、若いアスリートを守るためのより良い予防策や治療法の開発に役立つだろう」と述べている。 NIH傘下の米国立老化研究所(NIA)所長でこの研究には関与していないRichard Hodes氏は、「CTEが検出されなかった若いアスリートにおいても、特定の部位でのニューロンの大幅な喪失など、劇的な細胞レベルでの変化が見られたことは、特に注目すべきだ」とNIHのニュースリリースの中で述べている。また同氏は、「こうした初期の変化について解明を進めることは、現在の若いアスリートを守るだけでなく、将来的な認知症リスクの抑制にもつながる」と話している。(HealthDay News 2025年9月23日) https://www.healthday.com/health-news/neurology/head-impacts-cause-brain-cell-loss-in-young-athletes Copyright © 2025 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Rocketclips/Adobe Stock