最先端のロボット支援気管支鏡が肺の奥深くにある極めて小さな腫瘍にまで到達できることが、チューリッヒ大学病院(スイス)のCarolin Steinack氏らによる臨床試験で示された。Steinack氏らによると、このロボット支援気管支鏡は、特殊なCTスキャナーにより、肺の中の到達が難しい位置に隠れた腫瘍を見つけることができるという。この研究結果は、欧州呼吸器学会議(ERS 2025、9月27日~10月1日、オランダ・アムステルダム)で発表された。 Steinack氏は、「この技術によって、専門医は肺のほぼ全領域にアクセスできるようになった。これは、より多くの患者に生検を実施できること、より高い治療効果が期待できる早期の段階でがんを診断できるようになることを意味している」とERSのニュースリリースの中で述べている。 ERSの呼吸器インターベンション専門家グループ代表で、Golnik大学クリニック(スロベニア)内視鏡部長のAleš Rozman氏も、肺がんを治療可能な早期の段階で発見して治療するのにこの技術が役立つ可能性があるとの見方を示している。同氏は、「がんは通常、早期に診断されれば生存率の大幅な向上を望める。しかし、こうした極めて小さな腫瘍は診断が難しい。今回の研究は、ロボット支援技術が肺の奥深くにある小さな腫瘍の多くを診断する助けになることを示している」と付け加えている。 Steinack氏らは今回の臨床試験で、肺の周縁部に異常増殖がある78人の患者に気管支鏡検査を実施した。異常増殖の数は合計で127個だった。肺の周縁部は接続する気道がない場合が多く、通常は容易に到達できない領域である。腫瘍は直径が中央値11mmで、18個(14.2%)は気管支サインが陽性(病変に向かって走行する気管支が明確に認められる)で、35個(27.6%)は均一なすりガラス陰影に分類された。患者の半数(39人)はX線画像を用いた従来型の気管支鏡検査を受け、残る半数(39人)はCTスキャンを用いたロボット支援気管支鏡検査を受けた。 その結果、診断に至った対象者の割合は、ロボット支援気管支鏡群で84.6%(33人)であったのに対し、従来の気管支鏡では23.1%(9人)にとどまった。通常の気管支鏡の方法で生検が成功しなかった人に対してロボット支援気管支鏡を用いると、92.9%(26/28人)で腫瘍への到達と生検に必要な組織の採取に成功した。最終的に68人(53.5%)が肺がんと診断され、そのうち50人は最も早期の治療可能な段階のがんであった。Steinack氏は、「臨床的に従来の気管支鏡が選択肢とはならない患者において、この技術は正確な診断を可能にする」と述べている。 ただし、この技術は安価ではない。この新しいシステムの導入には110万ドル(1ドル150円換算で1億6500万円以上かかり、検査1回当たりの費用は約2,350ドル(同35万2,500円)になるとSteinack氏らは説明している。チューリッヒ大学病院の呼吸器内科医で主任研究者のThomas Gaisl氏は、「こうした腫瘍がある患者を多く診ている医療機関では、この技術により得られるメリットは投資に見合うものだと考えている。ただし、このロボットシステムは従来の気管支鏡が使えない、小さくて到達が難しい病変に限定して使用すべきだ」とニュースリリースの中で述べている。 一方、Rozman氏は、「この装置を導入し、使用するために必要となる莫大な追加コストを正当化するためには、この種のゴールドスタンダードの研究を実施することが極めて重要だ」と指摘している。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。(HealthDay News 2025年9月30日) https://www.healthday.com/health-news/pulmonology/robot-guided-device-reaches-tumors-deep-in-the-lungs Copyright © 2025 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock