標的となる部分に放射線を当てて治療する定位放射線治療(以下、放射線治療)が、危険性の高い不整脈の一種である心室頻拍に対する安全性の高い治療法になり得ることが、新たな研究で示された。米セントルイス・ワシントン大学医学部放射線腫瘍科のShannon Jiang氏らによると、放射線治療の効果は、標準的な治療法だが複雑な手術であるカテーテルアブレーションと同等であったという。また、放射線治療は、カテーテルアブレーションと比べて死亡や重篤な副作用が少ないことも示された。詳細は、「International Journal of Radiation Oncology, Biology, Physics」に9月29日掲載されるとともに、米国放射線腫瘍学会(ASTRO 2025、9月29日~10月1日、米サンフランシスコ)でも発表された。 心室頻拍は、2つの心室から異常に速い心拍が発生する疾患だ。米国心臓協会(AHA)によると、発作時には心拍数が急上昇し、めまい、息切れ、失神、胸痛などが起こり、重症の場合には心停止を引き起こすこともある。Jiang氏らによると、進行した心室頻拍の患者は多くの場合、副作用の強い心臓の薬を大量に使用する。それでも効果が得られない場合には、足の静脈からカテーテルを心臓まで通し、異常な心拍の原因となっている心臓の組織を焼灼するカテーテルアブレーションが標準的な治療法となる。こうした中、近年、新たな治療選択肢として注目されているのが放射線治療だ。Jiang氏らによると、これは放射線を集中照射して異常なリズムを引き起こしている心臓の組織を破壊する治療法で、麻酔も不要であるという。 今回の研究では、リスクが高く、薬物治療による効果も得られない心室頻拍の患者43人の記録を分析した。カテーテルアブレーションを受けたことがない患者は4人のみだった。43人のうち、22人は放射線治療を1回だけ受け、残る21人は再度カテーテルアブレーションを受けた。その結果、どちらの治療も心臓リズムのコントロールに有効であることが示された。心室性ショックやVT(心室頻拍)ストーム(心室頻拍が短期間に繰り返し発生する状態)が起こるまでの期間中央値は、放射線治療で8.2カ月、カテーテルアブレーションで9.7カ月であり、両群間に有意な差はなかった。 しかし、治療から31日以内に死亡した5人のうち4人はカテーテルアブレーションを受けた患者で、1人はカテーテルアブレーションの施行中に死亡した。いずれの死亡も治療に関連する副作用によるものだった。一方、放射線治療を受けた患者では、3年間の追跡期間中に治療関連死の報告はなかった。また、治療後1年以内に副作用が原因で入院が必要になった患者は、カテーテルアブレーション群の38%に対して放射線治療群では9%にとどまっていた。治療後、合併症が起こるまでの期間中央値は、カテーテルアブレーション群6日間、放射線治療群10カ月で、カテーテルアブレーション群の方がより早く合併症が起きていたことも分かった。全生存期間も放射線治療群では長い傾向にあり、中央値は放射線治療群で28カ月、カテーテルアブレーション群で12カ月だった。ただし、症例数が少なかったため、この差は統計的に有意ではなかった。治療から1年後の全生存率は放射線治療群73%、カテーテルアブレーション群58%で、3年後では両群とも45%だった。 こうした結果を受けてJiang氏は、「われわれの研究は、特に治療後早期において放射線治療の方が安全性が高い可能性を示唆している。カテーテルアブレーションでは施術後早期に有害事象の発生がピークに達し、それらが死亡につながっていたが、放射線治療ではそのようなピークは認められなかった。このことが、安全性の差につながったようだ」と言う。 Jiang氏は、「この結果は有望ではあるが、心室頻拍に対する放射線治療の有効性を証明するには研究の規模が不十分である」と説明している。現在、放射線治療の有効性の確定的な証拠を得るための大規模な国際共同臨床試験への患者登録が進められているという。(HealthDay News 2025年10月1日) https://www.healthday.com/health-news/cardiovascular-diseases/radiation-can-treat-heart-rate-disorder-study-says Copyright © 2025 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock