アルツハイマー病治療薬として2003年に米食品医薬品局(FDA)に承認されたメマンチンが、自閉症スペクトラム障害(ASD)の小児や若者の社会的機能を高めるのに役立つ可能性のあることが、新たな小規模臨床試験で明らかになった。社会性の障害に改善が見られた割合は、メマンチンを投与した群では56%であったのに対し、プラセボを投与した群では21%だったという。米マサチューセッツ総合病院のGagan Joshi氏らによるこの研究結果は、「JAMA Network Open」に10月1日掲載された。Joshi氏は、「メマンチンに反応を示した試験参加者は、ASDの軽度の特徴は引き続き見られたものの、社会的コンピテンスが向上しASD症状の重症度も軽減した」とMass General Brighamのニュースリリースで述べている。 アルツハイマー病などの神経変性疾患では、脳の学習や記憶に大きな役割を果たす興奮性神経伝達物質であるグルタミン酸が過剰に作用し、NMDA受容体が過剰に活性化した状態になっている。メマンチンは、このように過活性化されたNMDA受容体の働きを抑制することで神経細胞の損傷を防ぐ作用を持つ。Joshi氏らは、一部のASD患者は脳内のグルタミン酸濃度が異常に高いことから、メマンチンがこうしたASD患者にも有効かもしれないと考えた。 そこでJoshi氏らは今回、知的障害のないASDの若年者(8〜17歳)を対象に、社会性の障害に対するメマンチンの安全性と有効性を評価した。42人の参加者(平均年齢13.2歳、男性76.2%)が、12週間にわたりメマンチンまたはプラセボを投与する群に21人ずつランダムに割り付けられた。主要評価項目は治療に対する反応とし、これは保護者や教師などによるSRS-2(Social Responsiveness Scale–Second Edition)総合スコアの25%以上の改善、または臨床医によるCGI-I(Clinical Global Impression–Improvement)スケールによる評価で2点以下の場合と定義した。 試験を完了した参加者は、メマンチン群16人、プラセボ群17人の計33人だった。まず、試験期間中に少なくとも1回は再評価を受けた35人(メマンチン群16人、プラセボ群19人)を対象に解析した結果、治療に対する反応が認められたのは、メマンチン群で56.2%(9/16人)であったのに対し、プラセボ群では21.0%(4/19人)であった(オッズ比4.8、95%信頼区間1.1〜21.2)。メマンチンの認容性は良好で、有害事象の発生件数もプラセボ群と同程度だった。 次に、グルタミン酸を豊富に含む領域である前帯状皮質前部(pgACC)のグルタミン酸濃度に関するデータが得られたがASD患者37人と健康な対照16人を対象に、pgACCのグルタミン酸濃度が治療反応のバイオマーカーになり得るかを検討した。その結果、ASD群では健康な対照に比べてpgACCでのグルタミン酸濃度が有意に高く(95.5IU vs 76.6IU、P<0.001)、正常より1標準偏差以上高い参加者の割合は54%に上った。グルタミン酸の濃度が高かった参加者での治療反応率は、メマンチン群の80%(8/10人)であったのに対し、プラセボ群では20%(2/10人)であった。 Joshi氏は、「メマンチンが効いた患者は、社会参加が活発になったことが分かった」と話しつつも、「この薬がASDの治療にどれほど役立つ可能性があるのかをより正確に評価するには、さらなる研究が必要だ」との見解を示している。その上で同氏は、「より大規模な臨床試験の実施が、より幅広いASD患者集団におけるメマンチンの反応を評価するのに役立つ可能性がある」と述べている。(HealthDay News 2025年10月6日) https://www.healthday.com/health-news/child-health/alzheimers-drug-might-improve-social-functioning-among-kids-with-autism Copyright © 2025 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock