最近承認された注射薬のソタテルセプトによって、肺動脈性肺高血圧症(PAH)と新規に診断された人の健康状態の悪化を抑制できることを示した第3相臨床試験の結果が明らかになった。PAHは心臓から肺に血液を送る肺動脈の血圧が高くなる疾患であるが、同試験では、ソタテルセプトによってPAHの悪化リスクが76%低下することが示されたという。米ミシガン大学医学部循環器内科教授のVallerie McLaughlin氏らが実施したこの臨床試験の詳細は、「The New England Journal of Medicine(NEJM)」に9月30日掲載された。McLaughlin氏は、「この結果は、依然として治療選択肢が限られている発症初期の患者にとって極めて有望なものだ」と話している。 ソタテルセプトを販売するMerck社によると、米食品医薬品局(FDA)は2024年3月、同薬をPAHの治療薬として承認した。生物学的製剤であるソタテルセプトは、アクチビンと呼ばれるタンパク質を標的として作用する。アクチビンのシグナル伝達が過剰になると肺の動脈が厚くなり、厚くなった動脈を通じて血液を送り出そうとする心臓に負荷がかかるとMcLaughlin氏らは説明している。 今回の臨床試験では、PAH患者320人が、ソタテルセプトまたはプラセボを21日間隔で注射する群に160人ずつランダムに割り付けられた。その結果、ソタテルセプト群ではわずか3回の投与後に良好な効果が現れ始めた。中央値13.2カ月の追跡期間中に臨床的な病状の悪化を経験した患者の割合は、プラセボ群の36.9%に対してソタテルセプト群では10.6%にとどまっていた(ハザード比0.24、95%信頼区間0.14〜0.41)。PAHが原因で運動能力の低下が見られた患者の割合は、プラセボ群の28.8%に対してソタテルセプト群では5.0%だった。また、予定外の入院が必要となった患者の割合も、プラセボ群の8.8%に対してソタテルセプト群では1.9%に抑えられていた。報告された最も頻度の高い副作用は鼻出血とクモ状血管腫(毛細血管拡張症)だった。 McLaughlin氏は、「この結果は、ソタテルセプトによる早期からの治療が患者をリスクの低い状態に導きそれを維持することや、アウトカムの改善に役立つ可能性があることを示唆している」と述べている。実際にこの臨床試験は、結果が極めて良好であったため、プラセボ群に割り付けられた患者に対してその後もプラセボを投与し続けるのは倫理的に問題があるとの判断から、予定よりも早期に終了した。 この研究には関与していない、米ミシガン大学医学部循環器内科学のVictor Moles氏は、「PAHの患者に対する標準治療にソタテルセプトを追加することで得られた効果は驚くべきものだった」と述べている。また、この臨床試験の結果について同氏は、「治療開始が早いほど良好なアウトカムが得られることを示しており、早期介入の重要性が強調された」とニュースリリースの中で述べている。 なお、この臨床試験はMerck社の資金提供を受けて実施された。ソタテルセプトの価格は高く、Drugs.comによると45〜60mgのバイアル1本当たり1万4,516ドル(1ドル152円換算で約220万6,400円)だという。今回の臨床試験では、患者の目標投与量は体重1kg当たり0.7mgに設定されていた。(HealthDay News 2025年10月6日) https://www.healthday.com/health-news/cardiovascular-diseases/injectable-drug-slows-deterioration-from-pulmonary-hypertension Copyright © 2025 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: ahmadfaraz033/Adobe Stock (参考情報)Abstract/Full Texthttps://www.nejm.org/doi/10.1056/NEJMoa2508170 Press Releasehttps://www.michiganmedicine.org/health-lab/biologic-drug-reduces-symptoms-hospitalization-severe-pulmonary-hypertension-after-diagnosis