質の低い睡眠は脳の老化を加速させ、その一部は全身の炎症を介して引き起こされている可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。睡眠の質を5段階で評価するスコアが低い人ほど脳の老化が早いことが示されたという。カロリンスカ研究所(スウェーデン)の神経生物学、ケア科学、社会学分野のAbigail Dove氏らによるこの研究結果は、「eBioMedicine」に9月30日掲載された。 Dove氏は、「健康的な睡眠スコアが1点低下するごとに、脳年齢と実年齢の差は約6カ月拡大した。睡眠不足の人の脳は、脳年齢が実年齢より平均で1歳進んでいるようだ」と同研究所のニュースリリースの中で述べている。 この研究では、英国の一般住民を対象とした大規模コホート研究であるUKバイオバンクの参加者から抽出した2万7,500人(平均年齢54.7歳、女性54.0%)を対象に、健康的な睡眠パターンと脳年齢との関係、さらにその関係が全身の炎症によってどの程度媒介されるのかが検討された。参加者の睡眠の質は、健康的な睡眠の特徴(朝型、7〜8時間の睡眠時間、不眠がない、いびきをかかない、日中の過度な眠気がない)のスコア(0〜5点)を合計し、睡眠パターンを健康的(4〜5点)、中間(2〜3点)、不健康(0〜1点)の3群に分類した。試験開始時の睡眠パターンは、不健康が898人(3.3%)、中間が1万5,283人(55.6%)、健康的が1万1,319人だった。炎症レベルは、血液サンプルを用いて、複数の炎症マーカーを組み合わせた「INFLAスコア」で評価した。脳年齢は、平均8.9年間の追跡後に脳MRIからAIモデルで推定し、脳年齢から実年齢を引いた脳年齢ギャップ(BAG)を算出した。 健康的な睡眠スコアを連続変数として解析した結果、スコアが低いほどBAGが有意に大きく、健康的な睡眠スコアが1点低下するごとに脳年齢が実年齢より約0.48歳高くなる傾向が認められた。睡眠パターンを3群に分類して解析すると、睡眠パターンが「健康的」に分類された人と比較して、「中間」に分類された人ではBAGが0.24歳、「不健康」に分類された人では0.50歳、それぞれ有意に高いことが明らかになった。さらに媒介分析では、INFLAスコアがこれらの関連の6.81%と10.42%を媒介していることが示された。 Dove氏は、「われわれの研究結果は、睡眠不足は脳の老化を加速させる可能性があり、その根本原因の一つが炎症であることを示唆している。睡眠の質は調整可能であることから、より健康的な睡眠によって脳の老化の加速、ひいては認知機能の低下さえも防ぐことができる可能性がある」と話している。 Dove氏らは、睡眠不足は、主に睡眠中に働く脳の老廃物除去システムを阻害する可能性があると指摘する。その結果、アルツハイマー病と関連付けられているアミロイドβやタウタンパク質など、脳内の有害物質の濃度が上昇する可能性があるのだという。さらに、睡眠不足は心臓の健康に影響を及ぼし、それが脳の健康に悪影響を及ぼしている可能性も考えられるとしている。 ただし研究グループは、本研究において睡眠不足と脳の老化の関連は示されたものの、直接的な因果関係が証明されたわけではないと指摘している。(HealthDay News 2025年10月3日) https://www.healthday.com/health-news/senior-health/bad-sleep-linked-to-accelerated-brain-aging Copyright © 2025 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock