交通関連の粒子状物質(particulate matter;PM)を吸い込むと、それらが赤血球に付着して全身を移動しながら身体にダメージを与え得ることが、新たな小規模研究で示された。自動車の廃棄ガスや産業廃棄物中に含まれるPMは近年、脳や心臓からも検出され、疾患リスクの上昇に関連していることが報告されている。研究グループは、「この研究は、PMがどのように人体の主要な臓器に入り込むのかを解明する第一歩となるものだ」と話している。英クイーン・メアリー大学小児呼吸器学・環境医学教授のJonathan Grigg氏らによるこの研究の詳細は、「ERJ Open Research」に9月11日掲載された。 Grigg氏は、「体内では、赤血球が肺から酸素を集めて全身に運ぶ働きを担っている。今回の実験を通じてわれわれは、大気汚染のPMが赤血球を『ハイジャック』していること、つまりPMが体内のほぼあらゆる場所に移動できる可能性があることを突き止めた」とニュースリリースの中で説明している。その上で同氏は、「大気汚染由来のPMが体のさまざまな臓器に侵入しているというエビデンスは増えつつあるが、今回はそれがどのようにして起こっているのかを裏付ける明確なエビデンスを得ることができた」と述べている。 Grigg氏らは今回の研究で、12人の成人にロンドンの交通量の多い通りに面した場所で1時間過ごしてもらった。参加者は、大気中のPMであるブラックカーボン濃度を測定する小型装置を携帯した。 その結果、血液検査から、交通量の多い道路沿いで1時間過ごした後には参加者の赤血球に付着したPMの面積や個数が平均で2〜3倍に増加することが明らかになった。一部の参加者では道路から離れて1時間経過するとPMの量が減少していたが、他の参加者では増えた状態が持続していた。これは、人によって吸い込んだPMを除去する能力に違いがある可能性を示しているとGrigg氏らは指摘している。 一方、12人のうち8人は別の日にも再度実験に参加したが、その際にはPMを遮断するために設計されたフェイスマスク(FFP2マスク)を着用した。その結果、フェイスマスクを着用していた場合、交通量の多い道路のそばで1時間立って過ごした後も赤血球に付着したPMの量は増加していなかった。これは、フィルターマスクの着用によって吸入されるPMの量が減ることを示していると研究グループは述べている。Grigg氏は、「FFP2マスクによりPMが血液細胞に到達し付着するのをここまで効果的に防げるとは驚きだった」と言う。FFPは欧州規格のフェイスマスクで、N95マスクやKN95マスクとほぼ同等の防護性能がある。 さらにGrigg氏らは、この結果を確認するため、実験室でヒトとマウスの赤血球をディーゼル排気粒子にさらした。その結果、この粒子はヒトとマウスの赤血球に容易に付着し、加えた粒子の量が多いと赤血球に付着する粒子の量も増えることが示された。赤血球に付着していた粒子の分析からは、自動車の排気ガスから生じる鉄、銅、ケイ素、クロム、亜鉛に加え、ブレーキやタイヤの摩耗によって発生する銀やモリブデンが含まれていることが判明した。 この研究には関与していない、欧州呼吸器学会(ERS)の疫学・環境分野の専門家グループ長であるAne Johannessen氏は、「これらの危険な粒子が血流を介して身体のあらゆる部位に侵入する可能性があることが明らかになった。適切な防護マスクを使用することでリスクを低下させることができる可能性も示された」と話している。同氏は、このことは肺の疾患があり大気汚染物質の影響を受けやすい人や、交通量の多い場所を避けられない人にとって特に有益である可能性があるとの見解を示し、「多くの人は、日常生活で危険性の高い高濃度の大気汚染物質にさらされることを避けられないのが現状だ。したがって、大気汚染を大幅に削減し、あらゆる人々の健康リスクを下げるための法律が必要だ」と結論付けている。(HealthDay News 2025年10月6日) https://www.healthday.com/health-news/environmental-health/air-pollution-particles-hitch-a-ride-on-red-blood-cells-into-major-organs-study-says Copyright © 2025 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock