
エネルギー補給、美容やデトックス効果、免疫サポートなどのために水分やビタミン、ミネラルなどを静脈内注射(IV)の一形態である点滴で注入する(以下、IVハイドレーション)サービスを提供する施設が米国全土で急増している。こうした中、IVハイドレーションの謳い文句には科学的エビデンスがないことを示した研究結果が、「JAMA Internal Medicine」に10月6日掲載された。研究によると、IVハイドレーションは、サービスに対する規制も、またその効果を裏付ける医学的エビデンスもほとんどないまま提供されているという。
論文の共著者である米Center for Science in the Public Interest所長のPeter Lurie氏は、「IVハイドレーションは、エビデンスがほぼ何もない状況で提供されている。そのため、消費者に実際に危険が生じる可能性がある」とNBCニュースに対して語っている。
この研究では、米国でIVハイドレーションを提供している255施設のクリニックのウェブサイトの分析を行うとともに、ランダムに選ばれた87カ所のクリニックを対象に、一般客を装ってその店の対応やサービスの品質などを評価する「シークレットショッパー」調査を行った。
その結果、146施設(57.3%)はマグネシウム、137施設(53.7%)はグルタチオンを組み合わせてIVハイドレーションを行っていることが明らかになった。また、IVハイドレーションとは別に、ビタミン注射を提供している施設も162施設(63.5%)あった。全ての施設が効能に関する記載を載せていたが、出典を示していたのはわずか0.8%(2施設)のみであった。シークレットショッパー調査からは、85%以上のクリニックが、病歴を尋ねることなく疲労や風邪などの症状に対して特定の点滴カクテルを勧めていた。事前の医師の診察を義務付けているクリニックは24カ所(27.6%)、副作用の可能性について説明をしていた施設は21カ所(24.4%)のみであった。
米国医療スパ協会によると、ビタミン点滴や美容トリートメント、皮膚施術などを提供する水分補給クリニックや医療スパは、150億ドル(1ドル152円換算で約2兆2800億円)規模の健康産業に急成長している。
しかし、IVハイドレーションの提供に関する連邦規制や国家安全基準は存在しない。今回の研究では、全米50州のうち、IVハイドレーションサービスに関する何らかの規則や政策を定めているのは32州にとどまり、その中でも、研究者らが「包括的な監督」と呼ぶものを設けているのは、アラバマ州、ノースカロライナ州、サウスカロライナ州、バーモント州の4州だけであることも示された。Lurie氏は、「これは、従来の医療の枠組みの外に存在している医療システムだ。人々が、利益を期待できないのにこのサービスにお金を使うことになるのではないかと懸念している。また、点滴に伴う悪影響も気掛かりだ」と話している。悪影響の例としては、特に、訓練を受けていない医療従事者が点滴を行う場合には、感染、アレルギー反応、点滴液や器具などの汚染が考えられる。
米国医療スパ協会CEOのAlex Thiersch氏は、「こうした事業の経営者の多くは、自分が医療行為を行っていることに気付いていない可能性もある」と指摘する。同氏によると、実際に自分の行っていることが医療行為だと知って驚く人もいたという。「『ただ点滴をしているだけだ。ビタミン剤だから医療行為ではない』と思っていた人もいたが、人の静脈に針を刺すのなら、それは完全に医療行為だ」と同氏は話している。
なお、米食品医薬品局(FDA)は過去に、脂肪溶解を目的に販売されているメディカルスパ注射について、未承認の注射による感染症や瘢痕形成の事例を挙げて警告を発している。(HealthDay News 2025年10月8日)
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