がんの標的治療薬であるニラパリブ(商品名ゼジューラ)をホルモン療法に追加することで、前立腺がんの増殖リスクが低下し、症状の進行を遅らせることができる可能性が、英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)がん研究所腫瘍内科部門長のGerhardt Attard氏らが実施した臨床試験で示された。詳細は、「Nature Medicine」に10月7日掲載された。 Attard氏は、「現行の標準治療は、進行前立腺がん患者の大多数にとって極めて有効性が高い。しかし、少数ではあるが臨床的には重要な割合の患者では限定的な効果しか得られていない」と指摘し、「ニラパリブを併用することでがんの再発を遅らせ、余命の延長も期待できる」とUCLのニュースリリースの中で述べている。 Drugs.comによると、ニラパリブはがん細胞の自己修復機能を阻害する作用を持つPARP(ポリADP-リボースポリメラーゼ)阻害薬で、卵巣がんなど特定のがんの再発を防ぐための維持療法に使用する薬剤として承認されている。 今回の臨床試験では、標準治療薬であるアビラテロン酢酸エステル(商品名ザイティガ)とプレドニゾンにニラパリブを追加する併用療法が検討された。アビラテロンは前立腺がんの増殖を促すテストステロンの産生を抑える一方、プレドニゾンは治療に伴う副作用の一部を軽減する。対象は、32カ国から参加した相同組換え修復(HRR)関連遺伝子変異陽性の進行前立腺がん患者696人(年齢中央値68歳)だった。HRR関連遺伝子はDNA損傷の修復に関与しており、変異があるとがんがより速く増殖して転移しやすくなるとされている。進行前立腺がん患者の約4人に1人にBRCA1、BRCA2、CHEK2、PALB2などのHRR関連遺伝子に変異が見られ、今回の対象者も半数以上(56%)がBRCA1遺伝子またはBRCA2遺伝子の変異を保有していた。患者の半数がアビラテロンとプレドニゾンによる標準治療にニラパリブを追加する併用療法を受け、残る半数には標準治療薬に加えてニラパリブの代わりにプラセボが投与された。 約2年半の追跡期間でのITT解析から、ニラパリブ併用群では標準治療群と比べて画像診断による増悪または死亡のリスクが37%低下したことが示された。特に、BRCA1またはBRCA2遺伝子の変異を保有する患者では、画像診断による増悪リスクが48%低下するなどより顕著な効果が見られた。ニラパリブ併用群では標準治療群と比べて症状が悪化するリスクも半減し(ハザード比0.50)、顕著な症状の悪化が認められた患者の割合は、標準治療群で30%、ニラパリブ併用群で16%であった。全生存期間についても改善傾向が認められたが、生存率の向上を確認するにはさらに長期の追跡が必要であるとAttard氏らは述べている。一方で、ニラパリブ併用群では、貧血(29.1%対4.6%)や高血圧(26.5%対18.4%)などの副作用の発生率が有意に高いことが示された。また、患者の25.1%が輸血を必要としたと報告されている(標準治療群では3.7%)。治療関連の死亡者数はニラパリブ併用群14人、標準治療群7人であった。試験期間中、多くの患者が治療を中断しており(ニラパリブ併用群158人、標準治療群196人)、追加治療に移行した患者も少なくなかった。 Attard氏は、「この臨床試験の結果は極めて重要だ。診断時に広範な遺伝子検査を行い、最大のベネフィットが得られる患者に標的治療を適用するべきことを支持するものだからだ」と述べた上で、「医師は、ニラパリブが承認されているHRR関連遺伝子変異を保有するがん患者に対しては、副作用のリスクとがんの進行および症状悪化を遅らせるというベネフィットのバランスを考慮し、治療方針を話し合う必要がある」と付け加えている。(HealthDay News 2025年10月10日) https://www.healthday.com/health-news/cancer/drug-combo-effective-against-advanced-prostate-cancer Copyright © 2025 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock