科学者たちが、視力低下を引き起こす萎縮型加齢黄斑変性(AMD)の病態である地図状萎縮のある人に人工網膜インプラントを使用することで、視力を部分的に回復させることに成功した。地図状萎縮は、網膜の中心部(黄斑部)にある網膜色素上皮と視細胞が萎縮・消失することで、文字の読解や顔の認識などの日常生活機能が障害される。この新技術は、32人の患者のうち26人で視力検査表の白黒の文字を読めるようになるレベルまで視力を回復させたという。英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)眼科研究所のMahi Muqit氏らによるこの研究の詳細は、「The New England Journal of Medicine(NEJM)」に10月20日掲載された。 米Massachusetts Eye and Earの網膜部門長であるDemetrios Vavvas氏は、「これはまさに最先端の科学だ」とNew York Times紙に語っている。Vavvas氏は、この臨床試験の結果を精査した上で、「インプラントは治癒を導く治療法ではないものの、今後の発展が見込まれる新しい技術の幕開けとなるものだ」との見解を示している。 今回報告された臨床試験では、地図状萎縮がある高齢者38人(平均年齢78.9±6.4歳、男性18人)にこのインプラントを使用し、その効果が検証された。試験参加者はそれまで、視力の回復は不可能だと伝えられていた。このインプラント(PRIMAシステム)は、網膜下に埋め込む2mm四方の光電池型無線チップと小型カメラ付きの眼鏡で構成されている。眼鏡が赤外線画像をチップに投影すると、チップは光を電気信号に変換し、残存する網膜の神経細胞を刺激して白黒の映像を作り出す。 最終的に32人が12カ月後の追跡調査を受けた。評価の結果、32人のうち26人(81%)で12カ月後の視力に臨床的に有意な改善が認められた。回復した視力は解像度が低くぼやけていたものの、再び文字を読んだり形を識別したりすることができるようになったことは、多くの参加者にとって「人生を変える体験」だったと研究グループは述べている。 副作用は32人中19人に発生した。報告された副作用は、眼圧の上昇、小さな網膜裂傷、網膜出血などだったが、そのほとんどが「管理可能であり、2カ月以内に回復した」と研究グループは報告している。 現在、地図状萎縮の治療法には、ペグセタコプランとアバシンカプタドの2種類の薬剤しかなく、どちらも視力低下の進行を遅らせるだけで回復させることはできない。さらに、これらは1〜2カ月ごとの眼内注射も必要である。本研究結果をレビューした米コロンビア大学の黄斑変性症の専門家であるRoyce Chen氏はNew York Times紙に、「これらの薬剤は、基本的に悪化の速度を遅らせるだけだが、新たな治療法では、患者が視力を取り戻せる可能性がある。これは驚くべきことだ」と付け加えている。 同様に、本研究結果をレビューした米メイヨー・クリニックの眼科学部長Ronald Adelman氏もこの意見に同意を示し、この結果は「素晴らしい」と称賛し、この研究によって希望がもたらされたと付け加えている。 この臨床試験は、デバイスを開発したフランスの企業Pixium Vision社(後にScience Corporation社が買収)があるヨーロッパで実施された。Science Corporation社は欧州での販売許可を申請するとともに、米国での導入についても米食品医薬品局(FDA)との間で協議を進めている。この装置を発明した米スタンフォード大学の物理学者Daniel Palanker氏は、20年以上前からこの構想に取り組んできたと話す。Palanker氏の研究チームは、さらに高解像度の新しいインプラントの検証を進めており、初期段階の試験では有望な結果が得られているという。(HealthDay News 2025年10月21日) https://www.healthday.com/health-news/eye-care/breakthrough-retinal-implant-helps-restore-partial-vision-in-patients Copyright © 2025 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock