うつ病や不安障害の治療に広く使用されている抗うつ薬の一部は、体重、心拍数、コレステロール値に顕著な変化を引き起こす可能性のあることが、5万8,000人以上を対象に30種類の抗うつ薬をプラセボと比較した新たな研究で示された。英キングス・カレッジ・ロンドン(KCL)精神医学・心理学・神経科学研究所のToby Pillinger氏らによるこの研究結果は、「The Lancet」に10月21日掲載された。 この研究では、MEDLINE、EMBASE、PsycINFO、ClinicalTrials.gov、米食品医薬品局(FDA)のサイトから2025年4月までに公表された抗うつ薬単剤療法の効果をプラセボと比較したランダム化比較試験(RCT)を系統的に検索して抽出し、抗うつ薬の生理的副作用について検討した。評価項目は、体重、総コレステロール、血糖、心拍数、血圧(収縮期・拡張期)、補正QT時間(QTc)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)、ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)、ALP(アルカリフォスファターゼ)、ビリルビン、尿素、クレアチニンを対象とした。 151件のRCTと17件のFDAの報告書が解析対象に含められた。解析対象者の総計は5万8,534人で、検討された抗うつ薬は30種類に及び、治療期間中央値は8週間であった。解析の結果、抗うつ薬間で代謝および循環器系への影響には顕著な差が認められた。具体的には、一部の抗うつ薬は最大48%で体重増加が、最大55%で体重減少が認められると推定された。例えば、マプロチリン使用者では平均1.82kg、アミトリプチリン使用者では平均1.60kgの体重増加が見られた一方で、アゴメラチン使用者では平均2.44kgの体重減少が見られた。 心拍数の変化も抗うつ薬により異なり、ノルトリプチリンは心拍数を1分間に13.77回増加させる一方で、フルボキサミンは8.18回減少させた。パロキセチン、デュロキセチン、デスベンラファキシン、ベンラファキシンの使用者では総コレステロール値の上昇が見られ、デュロキセチン使用者では総コレステロール値に加え血糖値の上昇も見られた。肝機能の指標については、デュロキセチン、デスベンラファキシン、levomilnacipran(レボミルナシプラン)の使用でAST、ALT、ALPが上昇する傾向が見られたが、臨床的に問題となるほどの変化ではなかった。QTc、Na、K、尿素、クレアチニン、ビリルビンについては、臨床的に意味のある変化をもたらすことを示す強いエビデンスは認められなかった。 Pillinger氏らは、「これらの研究結果は重要な違いを浮き彫りにしているが、抗うつ薬がうつ病や不安症に対する有効な治療薬であることに変わりはない」と強調している。その上で、「これらの結果は、医師が患者の健康ニーズに合わせて薬をより適切に処方できるよう個別化された処方が必要であることを示している」と述べている。 本研究をレビューした米国精神医学会認定精神科医であるSue Varma氏は、「これらの薬が命を救い、人生を変えるものであることは分かっているが、患者の代謝機能、年齢、他に服用している薬によって効果には個人差がある」とCBSニュースに語っている。同氏は、うつ病を治療せずに放置すると体重の増加や減少といった身体的変化が引き起こされる可能性があるため、薬物治療を開始する際にはリスクとベネフィットを比較検討することが重要だと指摘し、「医師は、抗うつ薬を処方する前に患者と起こり得る副作用について話し合い、変化がないか定期的に監視すべきだ」と付け加えている。(HealthDay News 2025年10月23日) https://www.healthday.com/health-news/drug-center/some-antidepressants-linked-to-weight-heart-health-changes Copyright © 2025 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock