街路樹は、木の成長に伴い根が隆起して歩道を押し上げ(いわゆる根上がり)、歩行者がつまずいて転倒する危険性を高める。そのため、訴訟リスクへの懸念から植樹運動に消極的な建物所有者もいる。しかし新たな研究で、街路樹が多い地域ほど歩行者の転倒事故が少なく、街路樹が転倒防止に役立つ可能性が示唆された。米コロンビア大学メイルマン公衆衛生大学院教授のAndrew Rundle氏らによるこの研究結果は、「American Journal of Epidemiology」に10月14日掲載された。 Rundle氏は、「歩道関連の負傷は、公衆衛生上の大きな負担となっている。屋内での転倒は個人の健康要因と関連付けられることが多いのに対し、屋外での転倒は環境条件に左右される。この研究結果は、樹木が周囲の気温を下げることで転倒リスクを軽減する可能性があることを示唆している」と同大学のニュースリリースの中で述べている。 この研究では、緊急医療サービス(EMS)のデータを用いて、樹冠被覆率(ある土地の面積に対して木の枝や葉が覆っている面積の割合)と歩行者の転倒の発生場所との関連を調べる多都市・位置情報に基づくケースコントロール研究を実施できるかが検討された。調査対象は、2019年4月から9月の間にEMSが転倒事故で負傷した歩行者に対応した497地点と、対照として転倒事故が発生しなかった994地点とした。 その結果、転倒発生地点の樹冠被覆率の中央値は8%であるのに対し、対照地点は14%であり、樹冠被覆率が高いと転倒が発生する確率は低くなることが示された(調整オッズ比0.57、95%信頼区間0.45〜0.74)。 研究グループは、「われわれの知る限り、本研究は、樹冠被覆率と歩行者の転倒との間の逆相関関係を示す2番目の研究だ。これら2件の研究における樹冠被覆率の転倒防止効果は、最終的には樹木の気温を下げる効果により説明できる可能性がある。というのも、近年の文献では、気温の上昇が屋外での転倒リスクを高めることを示唆しているからだ」と述べている。 では、なぜ高温が転倒リスクを高めるのか。研究グループは、「高温は、人体の生理機能に悪影響を及ぼすだけでなく、道路や歩道の表面を劣化させる。高温によりアスファルトが軟化し、歩道の舗装材がずれて転倒の危険を生じさせる」と説明している。その上で研究グループは、「木陰はその危険性を軽減する可能性がある」と述べるとともに、「歩くことは健康にさまざまな恩恵をもたらすが、この研究結果は、都市の緑がおそらく周辺環境を冷却することで歩行者の安全性に寄与している可能性を示す新たなエビデンスとなるものだ」との見方を示している。 Rundle氏は、「今後の研究では、樹冠の冷却効果がどのように転倒リスクに直接影響するのかを調べるべきだ」と話している。(HealthDay News 2025年10月22日) https://www.healthday.com/health-news/environmental-health/how-sidewalk-trees-help-prevent-injuries-due-to-falls Copyright © 2025 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock