19年にわたり不妊治療を受けていたカップルの男性の精子から、高度な人工知能(AI)を用いたシステムにより2匹の運動能力のある精子を特定。これを卵子に注入したところ、2つの胚が発育し、それを母親に移植した結果、妊娠が成功したとする研究結果が報告された。研究グループは、「この新しい技術は、男性が無精子症である他の不妊カップルにも役立つ可能性がある」と述べている。米コロンビア大学不妊治療センター所長のZev Williams氏らによるこの研究結果は、「The Lancet」11月8日号に掲載された。 研究の背景情報によると、不妊症の約40%は男性側の要因によるもので、精液中に精子がほとんど存在しないか、全く検出できない無精子症や極少精子症がその約10〜15%を占めている。このようなカップルの多くが、長年にわたり不妊治療の失敗、侵襲的処置、精神的苦痛を繰り返し経験する。現在の不妊症の標準治療は、精巣内精子採取術(TESE)や熟練した胚培養士による手作業での精子探索を経て顕微授精(ICSI)を行うというものだが、これらは時間がかかり、侵襲的である上に成功率も限られている。Williams氏は、「精子数が極めて少ない男性の精液から生存可能な精子を特定し、採取するより良い方法を見つけることが、この分野では長年の課題となっていた」と話す。 こうした課題を解決するためにWilliams氏らは、AIとマイクロ流体技術を組み合わせて精液サンプルからわずかな精子を高速で探索し、リアルタイムで検出・採取する、非侵襲的なSperm Tracking and Recovery(STAR)システムを開発した。STARシステムは、高性能画像技術を使って精液サンプルをスキャンし、1時間以内に110万枚以上の画像を解析できる。検出された精子は、マイクロ流体デバイスにより自動的に分離される。 今回の研究では、19年の不妊治療歴を有するカップルに対し、このSTARシステムを初めて臨床で応用した例が報告された。カップルのうち、男性(39歳)は、包括的な検査から、Y染色体およびホルモン値は正常だが両側精巣の萎縮と小結石が認められ、過去に受けた複数回の広範囲な精子検査ではごくわずかな精子しか見つかっていなかった。一方、女性(37歳)には、卵巣予備能の著しい低下が見られた。 Williams氏らは、男性から採取した精液サンプル(3.5mL)を洗浄し、800µLのバッファーに懸濁し、STARシステムで処理した。その結果、通常の顕微鏡検査では精子は検出されなかったのに対し、STARシステムは、約2時間で250万枚の画像を解析し、7匹の精子を検出した。これらの精子のうち、運動性が正常だった2匹と2個の卵子を用いてICSIを行ったところ、両方とも分割期胚に発育。それらを3日目に移植したところ、移植13日目に妊娠反応が陽性となり、妊娠8週時点で胎児の心拍も確認された。 Williams氏は、「男性の要因による不妊症のカップルの多くは、生物学的な子どもを授かる可能性はほとんどないと告げられる。しかし、胚を作るのに必要なのは、たった1匹の健康な精子だけだ」と強調する。研究グループは、このSTARシステムは、精巣から精子を外科的に採取する手順や、技術者が精液サンプルを手作業で丹念に検査し、生存可能な精子を見つけて捕獲する手順に取って代わる可能性があると述べている。 研究グループは現在、より大規模な臨床試験を実施して、STARシステムの有効性を評価している最中である。(HealthDay News 2025年11月5日) https://www.healthday.com/health-news/fertility/ai-guided-sperm-analysis-results-in-first-successful-pregnancy Copyright © 2025 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock