トランスジェンダー女性が、男性から女性への性別移行のために女性ホルモンの一種であるエストラジオールを使用しても、心筋梗塞や脳卒中のリスクが高まることはないことが、新たな研究で示された。それどころか、トランスジェンダー女性に対するホルモン治療は、生まれつきの性別と性自認が一致するシスジェンダー男性と比べて、心臓や血管に対する保護的な効果がある可能性が示されたという。アムステルダム大学医療センター(オランダ)のLieve Mees van Zijverden氏らによるこの研究の詳細は、「European Heart Journal」に11月4日掲載された。 生まれつきの性別と性自認が一致しないトランスジェンダーの人は、胸の膨らみや低音の声など、自認する性により近い身体的特徴を得るためにホルモン治療を受けることを選択する人が多い。しかし過去の研究では、そのようなホルモン治療はトランスジェンダー女性の心血管イベントリスクの上昇と関連することが示唆されている。 Van Zijverden氏らは今回、Amsterdam Cohort of Gender Dysphoria(ACOG)のデータを用いて、トランスジェンダー女性2,714人、およびトランスジェンダー男性1,617人の健康状態を、一般人口と比較した。 その結果、エストラジオールを使用しているトランスジェンダー女性では、シスジェンダー男性と比べて心筋梗塞のリスクが50%低く(標準化罹患比0.50、95%信頼区間0.32〜0.71)、脳血管障害リスクは同程度であり(同0.94、0.72〜1.19)、静脈血栓塞栓症リスクは81%高い(同1.81、1.33〜2.35)ことが明らかになった。一方、トランスジェンダー男性では、シスジェンダー女性と比べて心筋梗塞リスクが約4倍高く(同4.20、2.72〜6.01)、脳血管障害リスクは55%高く(同1.55、1.01〜2.20)、静脈血栓塞栓症リスクは同程度(同1.00、0.53〜1.61)であった。 論文の上席著者でアムステルダム大学医療センター内分泌学教授のMartin den Heijer氏は、「先行研究では、トランスジェンダー女性の心筋梗塞や脳卒中のリスクがシスジェンダーの男性と比べて高い可能性が示唆されていた。われわれは、この結果に納得できなかった。今回の研究では、エストラジオールを使用しているトランスジェンダー女性において、心筋梗塞や脳梗塞のリスク上昇は認められなかった」とニュースリリースの中で説明している。同氏は、「エストラジオールには、心臓や血管を保護する作用があると考えられているが、今回の研究結果はそうした知見に合致するものだ」と指摘し、「今回の研究によって、長い間われわれを悩ませてきたパラドックスが解決された」と話している。 研究グループは、「全体として、これらの結果は、シスジェンダーの男性と女性の心血管リスクと一致していた。一般的に男性は女性よりも心臓の問題を抱えるリスクが高く、生殖器の違いがその一因となっている」と説明している。Van Zijverden氏は、「トランスジェンダー男性では、テストステロンの使用が血圧の軽度の上昇やコレステロール値の悪化を引き起こすことがあり、それによって心血管疾患のリスクが高まると考えられている」と説明している。 研究グループはまた、トランスジェンダー男性における心血管リスクの上昇には、ホルモン以外の要因も関与している可能性を指摘している。「そのため、今回の研究では、教育レベルや就労経験、収入などの生活習慣要因や社会経済的要因も考慮に入れて分析した。しかし、これらの要因ではリスク上昇のごく一部しか説明できないことが判明した」とvan Zijverden氏は説明する。同氏は、「トランスジェンダー男性のリスク上昇およびトランスジェンダー女性のリスク低下の正確な原因を明らかにするため、さらなる研究が必要だ」との見解を示している。(HealthDay News 2025年11月6日) https://www.healthday.com/health-news/cardiovascular-diseases/transgender-womens-heart-health-not-harmed-by-hormone-therapy Copyright © 2025 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock