大きな手術を控えている場合、手術そのものや術後のリハビリテーション(以下、リハビリ)に備えてエネルギーを温存する必要があると考える人は少なくないだろう。こうした考えは十分理解できるものだが、実際には、術前から開始するリハビリであるプレハビリテーションに参加した方が良い状態につながることが、米スタンフォード大学麻酔科学・周術期医学・疼痛医学教授のBrice Gaudilliere氏らが実施した臨床試験で明らかにされた。同試験では、マンツーマンでのプレハビリテーションが最も効果的であることが示されたという。詳細は、「JAMA Surgery」に11月12日掲載された。 この臨床試験では、待機的大手術を控えた患者58人(年齢中央値57歳、女性57%)を、個別化したプレハビリテーションを受ける群と標準的なプレハビリテーションを受ける群(対照群)にランダムに割り付けて、術前の身体機能、認知機能、免疫機能、および術後の合併症を比較した。対照群には運動指導、栄養やストレス軽減に関する助言、アプリによる認知トレーニングが提供された。一方、個別化プレハビリテーション群は、リモートで理学療法士と医師が1回ずつマンツーマンで実施する週2回のコーチングを受けた。プレハビリテーション群が受けた助言の内容は対照群と類似していたが、例えば、患者の自宅のキッチンにある食材の写真や動画を見た上で栄養に関するアドバイスや健康的なレシピを提供するなど、個々の患者の能力や進捗に合わせて個別化された。 最終的に両群とも27人が試験を完了した。プレハビリテーション群では、手術前の身体的および精神的な状態を測定する全ての検査で有意な改善が見られた。また、術後の回復につながる免疫システムにも変化が認められ、特定の免疫細胞の過剰反応が起きにくくなり、手術前の基礎的な炎症レベルも低下していた。さらに、術後に重大な合併症が発生した患者の数も、対照群では11人であったのに対し、プレハビリテーション群では4人にとどまっていた。 Gaudilliere氏は、「これまでの研究から、手術後に感染症を起こしやすい人は、手術前から自然免疫応答が過剰で、過度の炎症状態にあることが明らかになっていた」と話す。過剰に活性化した免疫細胞は、逆説的に病原体への免疫反応を低下させてしまうことがあるという。同氏は、「プレハビリテーションとは、手術という大きな負担に備えて、身体的な回復力だけでなく免疫機能や神経認知機能、さらには心理的側面を整えるためのトレーニングのようなものと捉えることができる」とニュースリリースの中で説明している。 研究グループによると、正しい食生活と運動、十分な睡眠といった身体的および精神的な健康状態を向上させる生活習慣は、大手術が人体に与える大きな負荷に耐える助けになる。共著者の1人であるスタンフォード大学外科准教授のCindy Kin氏は、「全くトレーニングをせずにマラソンをする人はいない」とニュースリリースの中で話す。しかし、「現実には、手術前に大きな生活習慣の改善を行う患者は多くない」と研究グループは指摘している。Gaudilliere氏は、「医師から推奨されているにもかかわらず、実際にこうしたプレハビリテーションプログラムに参加して遵守してもらうのは極めて難しい」と言う。 研究グループは、次の課題は個別化されたプレハビリテーションが最も効果的な患者の特徴を明らかにすることであるとの見解を示している。その結果が明らかになるまでは、手術を控えた患者はどんなことでも良いので栄養、運動、睡眠を改善する小さな行動変容に取り組むと良いとKin氏は助言している。(HealthDay News 2025年11月13日) https://www.healthday.com/health-news/exercise-and-fitness/personalized-prehabilitation-improves-surgery-outcomes-trial-finds Copyright © 2025 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock