脳は、細菌の存在しない無菌環境と考えられている。しかし新たな研究で、脳腫瘍の内部に細菌が存在することを示唆するシグナルが確認された。研究グループは、これらの細菌は、がんの成長や挙動に影響を与えている可能性があると考えている。これまでにも大腸がんなどの消化器がんにおいて細菌が発見されているが、他の部位の腫瘍における細菌の存在については議論があった。米テキサス大学MDアンダーソンがんセンター外科腫瘍学およびゲノム医学分野のJennifer Wargo氏らによるこの研究結果は、「Nature Medicine」に11月14日掲載された。 Wargo氏は、「この研究は、脳腫瘍の生物学に対する理解に新たな次元を開くものだ。微生物の要素が脳腫瘍の微小環境(がん細胞の周囲にある細胞や分子、構造のまとまりのこと)にどのような影響を与えるかをマッピングすることで、がん患者の転帰を改善するための新たな治療戦略を特定できる可能性がある」とニュースリリースの中で述べている。 この研究では、221人の患者から採取した243個の脳組織サンプルが分析された。サンプルには、脳腫瘍(神経膠腫、転移性脳腫瘍)由来のサンプルが168個、非がんまたは腫瘍隣接組織のサンプルが75個含まれていた。 蛍光 in situ ハイブリダイゼーション法(FISH法)、免疫組織化学、高解像度イメージング技術を用いた解析の結果、神経膠腫および転移性脳腫瘍の両サンプルで細菌の16SリボソームRNA(16S rRNA)やリポ多糖(LPS)が検出された。これらの細菌シグナルは、腫瘍細胞や免疫細胞、間質細胞の内部に局在していた。また、カスタム16S rRNA解析およびメタゲノム解析により、腫瘍微小環境における細菌シグナルと関連する特定の菌群が同定されたが、標準的な培養法では生菌は得られなかった。空間解析からは、細菌16S rRNAシグナルのパターンが、抗菌反応や免疫代謝の特徴と、領域レベル・細胞近傍レベル・細胞レベルで相関していることが示された。さらに、腫瘍内の細菌16S rRANの配列は、サンプル提供者自身の口腔や腸内の細菌と重複しており、離れた場所の微生物叢との関連も示唆された。 論文の筆頭著者であるMDアンダーソンがん研究センター外科腫瘍学分野のGolnaz Morad氏は、「本研究により、脳腫瘍の微小環境において、これまで知られていなかった役割を担う要素が明らかになった。この要素は、脳腫瘍の挙動を説明する手がかりとなる可能性がある」とニュースリリースの中で述べている。また同氏は、「細菌要素は腫瘍内の免疫細胞と相互作用し、腫瘍の成長や治療への反応に影響を与える可能性がある」との見方を示している。ただし研究グループは、この研究では、脳腫瘍内に存在する細菌ががんの増殖を直接促進するような、意味のある変化を引き起こすかどうかは不明であるとしている。 研究グループは現在、細菌がどのように脳に到達し、脳腫瘍の形成に関与しているのかをより深く理解するための研究に取り組んでおり、その一つとして、歯周病が脳への細菌の拡散に影響を与えるかどうかを調査しているという。(HealthDay News 2025年11月18日) https://www.healthday.com/health-news/cancer/traces-of-bacteria-found-in-brain-tumors Copyright © 2025 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock