肝臓を提供する人(ドナー)の生命維持装置が外されてから死亡するまでの時間が30~45分を超えると、提供された肝臓が移植を受ける患者(レシピエント)の体内で良好に機能する可能性が低くなるため、移植は却下されることになる。しかし新たな研究で、人工知能(AI)モデルが、臓器が移植可能な状態を保てる時間内にドナーが死亡する可能性を医師よりも正確に予測し、ドナーが時間内に死亡せず、移植に至らなかったケースの割合(無駄な臓器取得率)を60%減らすことができたことが示された。米スタンフォード大学医学部腹部臓器移植外科臨床教授の佐々木一成氏らによるこの研究の詳細は、「The Lancet Digital Health」に11月13日掲載された。 佐々木氏は、「このモデルは、手術の準備を始める前に臓器を使用できるかどうかを判断することで、移植プロセスをより効率的なものにする可能性がある。これにより、臓器移植を必要とするより多くの候補者が移植を受けられるようになるかもしれない」とニュースリリースの中で述べている。 佐々木氏らの説明によると、末期肝疾患患者に最善の治療法は肝移植であるという。多くの場合、ドナー肝臓は心停止を起こしたが生命維持装置によって生存が維持されている人から提供される。これは「心停止後臓器提供(donation after circulatory death;DCD)」と呼ばれている。 しかし、こうしたドナーから適合条件を満たした肝臓が見つかっても、生命維持装置を外した後の生存期間が長かった場合、約半数のケースで移植は中止されることになる。佐々木氏らによると、生命維持装置の停止後、死亡確認までの間、臓器への血液供給は変動する。特に、死に至るまでの時間が30分を超える場合、そのような変動により肝臓が損傷するリスクが高まるという。ドナーになる可能性のある人の約半数は、生命維持装置の停止から30分以内に死亡するため、移植に適したドナーとなるが、残りのケースでは、外科医がバイタルサインや血液検査、神経学的情報に基づき臓器提供が可能かどうかを判断する。 佐々木氏らは、2022年12月1日から2023年6月30日にかけて1,616人のドナーの情報を収集し、外科医が利用できるものと同じ情報を用いてドナーの死亡時刻をより正確に予測するようにAIモデルを訓練した。このAIモデルでは、性別、年齢、体重などの基本情報に加え、バイタルサイン、血液検査の結果、心疾患の既往歴、神経学的評価などを解析に使用した。また、呼吸補助の程度を反映する人工呼吸器設定も予測因子として組み込んだ。 訓練後、このAIモデルの予測精度を過去の398人のドナーのデータで検証し、さらに新たにドナーとなる可能性のある207人でも検証した。その結果、AIモデルはドナーが一定時間内に死亡するかどうかを、外科医の判断や既存のリスク評価ツールよりも正確に予測した。無駄な臓器取得率は、外科医で平均19.5%であったのがAI予測モデルでは7.8%と約60%減少した。一方、ドナーが予想よりも早く死亡したため移植準備が間に合わなかった機会損失率は、外科医で15.5%、AIで16.7%とほぼ同等であった。 佐々木氏は、「われわれは現在、こうした機会損失率を低下させる取り組みを進めている。移植を必要とする患者がそれを受けられるようにすることが、最優先されるべきだからだ」と言う。また同氏は、「われわれはさまざまな機械学習アルゴリズムを競わせることでモデルの改善を続けている。最近、死亡時刻の予測精度を維持しつつ、機会損失率を約10%に抑えられる新しいアルゴリズムを見出した」と付け加えている。研究グループは、このモデルを心臓や肺の移植に応用する方法についても検討を進めている。(HealthDay News 2025年11月18日) https://www.healthday.com/health-news/liver-health/new-ai-might-boost-liver-donations-by-highlighting-best-potential-donors Copyright © 2025 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock (参考情報)Abstract/Full Texthttps://www.thelancet.com/journals/landig/article/PIIS2589-7500(25)00100-1/fulltext Press Releasehttps://med.stanford.edu/news/all-news/2025/11/liver-transplant.html