歯の根管治療を受けたい人はいないだろうが、もし受けなければならない場合は、心臓には良い影響があるかもしれない。英国の研究で、根管治療の成功は心臓病に関連する炎症を軽減し、さらにコレステロール値や血糖値を改善する可能性のあることが明らかにされた。英キングス・カレッジ・ロンドン歯内治療学分野のSadia Niazi氏らによるこの研究結果は、「Journal of Translational Medicine」に11月18日掲載された。 Niazi氏は、「歯の根管治療は口腔の健康を改善するだけでなく、糖尿病や心臓病などの深刻な疾患リスクの軽減にも役立つ可能性がある。このことは、口腔の健康が全身の健康に深く関わっていることを強く思い出させる」と話している。 根管治療は虫歯が歯の神経にまで達した場合に行われる神経の治療で、感染または損傷した歯髄(歯の内部にある神経と血管を含む軟組織)を除去し、歯の内部を清掃・洗浄した後に詰め物をして密封する。近年、多くの研究で、口腔の健康が心血管の健康に密接に関連していることが示されている。Niazi氏らも背景説明の中で、口腔内の感染症は、全身、特に心臓に炎症を引き起こす可能性があると指摘している。 今回の研究では、根管治療を受けた根尖性歯周炎患者65人を対象に2年間追跡して、根管治療の成功が血清の代謝プロファイルにどのような影響を与えるかを調べた。その上で、それらの変化とメタボリックシンドローム(MetS)の指標、炎症バイオマーカー、血液・根管内の微生物叢との関連を評価した。対象者から、治療前(ベースライン)、治療後3カ月、6カ月、1年、2年の5時点で血清サンプルを採取し、核磁気共鳴(NMR)分光法を用いて解析した。 その結果、根管治療後には、24種類(54.5%)の代謝物に有意な変化が認められた。具体的には、3カ月後に分岐鎖アミノ酸(バリン、ロイシン、イソロイシン)が有意に減少し、2年後にはグルコースとピルビン酸(解糖系で生成される代謝物)が有意に減少した。また、コレステロール、コリン、脂肪酸が短期間で減少し、トリプトファンは徐々に増加した。これらの結果は、糖代謝・脂質代謝の改善と炎症負荷の軽減を示唆しており、心臓の健康にとって好ましい兆候といえる。さらに、代謝プロファイルの変化は、MetSの臨床指標、炎症マーカー、治療前の血液・根管内の微生物叢と強く関連することも示された。 Niazi氏は、「根管の感染症が長期間続くと、細菌が血流に入り込んで炎症を引き起こし、血糖値や脂質値を上昇させる可能性がある。その結果、心臓病や糖尿病などのリスクが高まる。歯科医は、このような根管感染症の広範な影響を認識し、早期診断と治療を推進することが不可欠だ」とニュースリリースの中で述べている。同氏はまた、口腔の健康と全身の健康の間には密接な関係があることから、歯科医と他領域の医療専門家が連携して治療する必要があるとの考えも示している。(HealthDay News 2025年11月24日) https://www.healthday.com/health-news/dental-care/a-root-canals-hidden-beneficiary-the-heart Copyright © 2025 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock