大気汚染は、定期的な運動によって得られると期待している健康効果の一部を損なう可能性のあることが、新たな研究で示唆された。運動がもたらすはずの死亡リスクの低減効果は、大気汚染のひどい地域に住む人では半減することが示されたという。英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)心理学・疫学教授のAndrew Steptoe氏らによるこの研究結果は、「BMC Medicine」に11月28日掲載された。 Steptoe氏は、「われわれの研究は、大気汚染が運動の効果をある程度弱めることを示しているが、完全に打ち消すわけではない」とニュースリリースの中で述べている。同氏は、「今回の結果は、微小粒子状物質(PM2.5)による健康被害を改めて示すものだ。健康的な老化にはきれいな空気と身体活動の両方が重要と考えられ、健康を害する汚染レベルを下げる努力を強化する必要がある」と話している。 この研究でSteptoe氏らは、まず、米国、英国、台湾、中国、デンマークなどに住む151万5,094人を対象とした7つの研究データを統合し、解析した。これらの研究の追跡期間中央値は12.3年で、この間に11万5,196人が死亡していた。 その結果、1週間当たりの運動量が7.5〜15MET/時間(150〜300分/週の中強度の運動に相当)と推奨レベルを満たしていた人では、死亡リスクが約30%低いことが示された。しかし、同じ運動量でも、空気が汚れている地域(PM2.5濃度≧25μg/m³)で運動を行っている場合には、死亡リスクの低下は12〜15%とほぼ半減することが明らかになった。 次に、3つの大型コホート(86万9,038人、死亡者数4万5,080人)を対象に、個人レベルでPM2.5の濃度別に運動の効果を比較し、この結果が再現されるのかを検討した。その結果、ほとんど運動をしない群(1週間当たり1MET/時間未満)+高汚染(PM2.5濃度が35〜50μg/m³)を基準とした場合、運動量の推奨レベルを満たしていた人の死亡リスクは、PM2.5 濃度が35〜50μg/m³で25%(ハザード比0.75)、25〜35μg/m³で33%(同0.67)、15〜25μg/m³と10〜15μg/m³でそれぞれ66%(同0.34)、10μg/m³未満で70%(同0.30)低下し、大気汚染レベルが高いほど、死亡リスクの減少幅は小さくなることが示された。 研究グループは、世界人口のほぼ半数(46%)が、PM2.5濃度に関する安全基準を超える地域に住んでいると指摘している。論文の筆頭著者である国立中興大学(台湾)のPo-Wen Ku氏は、「この研究は、汚染された環境においても運動が有益であることを強調している。しかし、大気の質を改善すれば、健康上の利益を大幅に高めることができる」と述べている。 研究グループは、このような結果ではあったものの、運動習慣のある人は落胆しないでほしいと話している。共著者の1人であるUCLの医療・社会統計学教授のPaola Zaninotto氏は、「われわれは、人々に屋外での運動をやめてほしいとは考えていない。大気の質を確認したり、より空気のきれいなルートを選んだり、汚染がひどい日は運動の強度を少し落とすことで、運動の健康効果を最大限に引き出すことができる」と述べている。(HealthDay News 2025年12月8日) https://www.healthday.com/health-news/environmental-health/air-pollution-undermines-health-benefits-of-exercise-evidence-says Copyright © 2025 HealthDay. All rights reserved.Photo Credit: Adobe Stock